小さな新聞5月号(月刊わらじ連載)


風邪に戒厳令の社会とは

 新型インフルエンザ特別措置法という法律ができた。(4・27読売) 深刻な流行が予想できる場合は、国が緊急事態宣言を発令し、都道府県知事は学校を休校したり催し物・集会など人の集まることを制限できる、全国民に予防接種をするなど。この法律に対しては、「いたすらに危機感をあおり、危機管理対策のみを究出させた」と日本弁護士連合会、日本ペンクラブ、日本消費者連盟、薬害オンブスパースン会議などが反対声明を出し、感染症専門の医師からも反対の声が上がっていた。
 前提となっている被害想定は、最大入院患者数200万人、死亡患者数64万人。この被害想定は、1918年のスペインインフルエンザのデータを基に推計したもの。100年前のしかも第一次世界大戦で疲弊した社会での状況が基になっている。衛生状態、医療水準の著しい違いを無視した過大な被害想定である。
 '09年の新型インフルエンザ騒動は当時の「行動計画」に基づいて引き起こされたものであるが、世界の専門家の間で無意味とされていた。”水際作戦”で成田で疑わしい人を隔離しているうちに、神戸で渡航経験のない高校生が発症した。神戸では同じ高校の制服を着ている生徒たちはバスに乗せてもらえなかったという事態にもなった。季節性インフルエンザと大して違わないということが判明しても政府はワクチンを輸入し、結局使われず廃棄されたりして850億円もの損害を出した。国民すべてにワクチン、抗インフルエンザ薬を投与というが、これらは予防効果が期待できないばかりか重症化を防ぐこともできないという国際的研究の結果が出ているわけだから見当はずれもはなはだしい。危機管理以前に感染症とは何か、うつる病気に対してどこまで対応することが必要なのかを根本から考えることが問われている。