10mのスロープを上がり、ジャバラ式のリフトで1.5mせりあがる……舞台の話でも遊園地の乗り物でもない。春日部市武里団地に住む野島久美子さんは、毎日こういうややこしい方法でわが家に出入りしている。しかもこのリフトのスイッチを野島さんは操作できないので、出入りのたびに介助者を頼まざるをえない。天気がいいからちょっとそこらをぶらぶらしてこよう…といったそのときの気分で外出するわけにはいかない。 大仕掛けなわりにバリアいっぱいのこの車椅子対応住宅は、96年に当時の住宅公団が首都圏の既設団地内の3戸を選びバリアフリー改修を試験的に行ったもの。しかしその直後公団は都市整備公団に看板を変え、住宅から徐々に撤退する方針に転換したためか、3戸の改修の評価もその後の展開も尻切れトンボになってしまったようだ。いま公団既設団地では、階段はそのままで室内だけを少し改修した「高齢者賃貸住宅」と、建替えに際し自治体とタイアップし借上げ型のバリアフリー公営住宅を作らせて行くといった、いわば清算へ向かっての動きしか見えない。 してみれば、この一見不合理な住宅も、かって「3DK」「団地サイズ」など高度成長期の住まい文化を創ってきた住宅公団が、その落日を前にしてもう一度時代を牽引する新たな住まい文化を生み出したいとあがき挫折した記念碑的な建物として、大事に住みながら保存してあげるべきなのかもしれない。どんなところでも「住めば都」なのだから。 |