このお方が本誌の最長連載ページ「克己絵日記」の著者・橋本克己画伯である。いままさに県立大学の学食のテーブルの上に持参の昼食を広げたところ。缶コーヒー、のしいか、チョコプリン、フルーツゼリー、うまか棒、グミ、メロンパン、アーモンドチョコなどが画伯の定番の昼食メニュー。ほとんど毎日電車で街へ出かける画伯は、よく駅のホームのベンチを食卓代わりにこの品々をひろげて昼食をとっている。家へ帰ってからの遅い夕食はレトルト食品か即席めん、即席スープなど。朝はインスタントコーヒー。親一人子一人なのに、料理上手の母堂の手料理はめったに口にすることがない。かって障害者解放運動が華々しく登場した頃、「新幹線のビュッフェでビフテキを食べるのが俺の解放だ」と言った障害者活動家がいたとか。画伯の辞書には「解放」という字句はないが、20才直前まで電車も買物も知らず家の奥にこもって生きてきた彼にとって、甘い甘い添加物に満ちた食品群こそ、まさに「街」そのものであったにちがいない。今月号の特集「ふ……健康」にぴったりの写真ではないか。 |