『月刊わらじ』2005年4月号表紙

 橋本宅で金曜の夜に行われている手話会の冒頭、いきなりホスト役の克己画伯がテーブルの上に這い上がりました。みんな驚きました。何をするつもりでしょう。すると画伯は、手に持っていた紙の束から、絵や文字を書いた紙をつぎつぎと机の上に並べてゆきます。写真でおわかりになるでしょうか。まずひろげたのは、画伯が女性と二人でいる何枚かの絵で、その一枚は大きなハートマークで囲まれた二人を描いています。その次に、画伯はさまざまな女性風の氏名を書いた表札のような紙を、つぎつぎと机の上に並べてゆきました。すべてちがう名前です。どれも画伯が頭でひねり出した名前らしく、わらじの会の内外に実在する人にやや似ていますが、やはりこのへんでは見かけない名前です。
 ひろげ終わると、画伯は机から降りました。そして、手話会の参加者達に向かって、この名札の中から画伯と結婚する相手の札を引いてくれと、手話で語るのです。とうぜんながら、画伯が昨夜何時間もかけて作成したのであろう「結婚相手探索カードセット」は空振りに終わったわけですが、アイディアマンの亡父の血を受け継ぐ画伯の奇想天外な発想を垣間見たひとときでした。
 聾唖、車椅子に加え弱視の画伯は、このところとみに視力が落ち、毎日の電車での小旅行も、このところ草加や北越谷といった駅前広場にスーパー等のある駅周辺に限られるようになっています。もともと暗いところではまるで視えなかったのが、最近では明るいとまぶしくて視えないと言い、夜、照明の明るい場所だけしか動けなくなりました。19歳で家の奥から街に出るようになって四半世紀、いま行動制限を余儀なくされる状況の中、いわば「街」(外・他者)を身「内」に導きいれる回路として、画伯の「結婚妄想戦略」が打ち出されてきました。画伯はXデーを、4月28日の誕生日と予告し、つぎつぎと作戦を敢行しています(本号「克己絵日記」参照)。Eyeは世界を変えるか?恐怖の大王は空から降りてくるか?赤い蜘蛛の糸にぶらさがる人は誰?