『月刊わらじ』2005年8月号表紙

 カラーン、コローンと下駄の音が響き、異界からの恋人が近づいてきそうな長屋(木造アパート)の一角。「妖怪団」と書かれた提灯は、この家の主、樋上さんが、今宵のプランづくり会に集う人々を歓迎するために灯した。愛用の電動車いすの上でぼうっと光っている。集まる人々は6〜7名。家に入るとまずお茶をいれ、谷中耳鼻科の医師・水谷さん手づくりのお弁当を食べる。食べ終わった頃、ホストの樋上さんが、「では照和さんから」といったぐあいに、語り手を指名する。「はい、じゃあ、いつもと変わり映えしないけど…」などと、言いながら近況が語られる。「報告」とか「問題提起」といった表現はそぐわない。「百物語」、「雨夜の品定め」といった雰囲気に近いかも。常連の一人「照和さん」こと鈴木さんが、「ムラの寄り合いだな」と言う。いろんな人のうわさ話が多いからだ。ただ、プランづくり会では、日々の活動の話はあまりしない。会社の話、組合の話、家族の話、故郷の話、町内会の話、友達の話、友達の友達の話、病気の話、後悔の話…といった周辺部の話題が多い。「黒蜘蛛後家の会」と同じ様に、そんな無目的な語りの中に、「えっ、そうだったのか」と驚く人間関係の真相がしばしば浮かび上がってくる。そんな中で合宿の話もする。樋上さんの場合は、一人一人の話につっこみを入れる。一巡するとはや10時半だ。「ではごくろうさまでした。」と樋上さん。
 月に2回のプランづくり会。第4水曜が樋上宅。第2水曜は野沢代表宅。どちらも一人暮らしの男性だ。前回、野沢宅に着いたらホストが寝込んでいた。しばらく前に熱中症で倒れ、大騒ぎになり、以来あまり動かないようにしているという。緊張が強く冬でも汗をかいている野沢さんは、夏が苦手。この夜のプランづくり会は、ふとんに横になったまま司会をしていた。