『月刊わらじ』2006年3月号表紙

 ここは春日部市大畑の心身障害者地域デイケア施設・パタパタの入口前。やや照れ笑いしながらポーズをとっているのは、同施設通所者の江橋基秋さん。右後方に見える後姿は、その向こうにある団地内の公立保育所の園児達と保育士さん。たったいま、園児達20人ほどがパタパタの前をお散歩で通りがかり、中から出てきて手を上げる江橋さんに、「あ、えはしさんだ」、「えはしさんだ」、「こんにちは」、「こんにちは」と口々にあいさつをして過ぎて行ったところ。子供の好きな江橋さんは、もう何年も前から、団地内の小学校や幼稚園、保育所の前に行き、子供たちをながめ、時には笑いかけたり、声をかけたりしている。交通事故の後遺症で高次脳機能障害のある江橋さんは、動作も会話もゆっくりで、意味はわかってもことばがすぐ出てこない。忙しく動いている人々のテンポに合わない。そのぶん、小さな子供たちやからだが不自由になったお年寄りなどのテンポと共鳴しあうものがあるらしい。しかし、そんな江橋さんも、かっては幼稚園や小学校の教員や親から怪しい人物と見られ、パタパタなどにもひんぱんに苦情が来た時期があった。本人自身も子供たちや園、学校とどうつきあっていいかわからず、ギクシャクした行動をとったりした。苦情を受けたパタパタの人々をはじめ江橋さんとかかわりのある者も、園や学校に対しては「迷惑をかけているのならば、その場で本人に言ってください」と伝えるいっぽうで、ひんぱんに活動の持ち場を離れて一人で子ども達のいる場へ出かけてしまう本人ともしばしばぶつかりあってきた。そんな年月を経て、やっと少しずつお互いに付き合い方がわかってきたといおうか。先月号の月刊わらじ特集は「フシン…」だったが、「不審者」として挙げられる人達の中にはかっての江橋さんのような状況を抱えた人達も相当いるのではないか。「特別支援教育」の必要性を示すために一昨年県総合教育センターが小・中学校の担任向けに行ったアンケートのように、何かといえば「特別な対応が必要な人」、「困った人」、「アブナイ人」をくくりだそうとする社会の流れは、人と人がたがいに付き合い方を学ぶこうした長いプロセスを不可能にする。短期間で結果を出せという障害者自立支援法もまた同じだ。