『月刊わらじ』2019年01月号表紙

2019年01月号表紙

 この新年はここ数年の「平成という時代はなんだったのか」という問いがフィナーレを迎えるときになる。その中身はさまざまだが、「戦後の『神話』崩れた30年」(読売新聞2018年12月27日)という表現には異論がないと思う。「成長神話」が山一証券破綻やリーマンショックで崩れ、「安全神話」が阪神、東日本の大震災そして原発事故で崩れ去った。もうひとつ付け加えれば、この平成に入ってバイオ・医療産業や人材会社が跋扈して医療、福祉による「安心神話」を創り、平成の終わりになってそれらが崩れつつある。とはいえ、神話というのはどんな神話であっても、たとえ崩れても形を変えて復活させようとするさまざまな力が働くものだ。とりわけ経済的、政治的力が。かくして、崩壊と復活の海流がせめぎあう海峡がこの新年ということができよう。
 「安心神話」の崩壊は、「少子高齢化」によって支える側と支えられる側の関係が、騎馬戦型から肩車型の危ういものになりつつあると説明される。しかし、そもそも、医療・福祉産業のための市場拡張を進める方向で、介護保険や自立支援法等による「安心神話」も構築された。これらの制度は、介護や支援を有資格の専門家独占の行為とし、利用できる者も全国一律の認定を受けた者とした。かくて市場が形成されニーズが開発された。そして医療・福祉産業の過当競争の結果をいま目前にしている。
 こんな今だからこそ、平成以前から地域で手探りしてきた関係を大事にしたい。写真の左端・菅野さんは当時通っていた作業所が利用料を取るというので退所し、試しに右端の荒井さんの介助をやってみないかということで二人が出会った。街を歩いてリサイクルショップで有り金をはたいてしまい、家でも居場所がない菅野さんにとって、介助者をやりくりして一人暮らしが長い荒井さんは、最も身近な他者であり、雇用主となる。出かけるときも、方向音痴の荒井さんにとって菅野さんはよいガイドであり、全国を二人で旅した。最近菅野さんは精神的に不安定になり、街でにらんでいると通報され警察に保護されたり、終電後に交番に行き都内からパトカーで送られてきたりしたが、現在はGHテレサに住み、就労支援「世一緒」に通い、週末は荒井宅に泊りがてら介助に行く。荒井さんは不安定になる菅野さんを気遣いながらも頼りにしている。映画「最強の二人」では、初めから働く気がなく失業保険を取るためポーズで介助者に応募した移民青年を頚損のお金持ちが雇い入れる。「彼だけが私を対等に扱ってくれた」。フランスでも同じことが問われているようだ。