就学指導委員会を廃止しよう |
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東松山市が「就学指導委員会廃止」を決めました。このことは、実はさる7月12日に行われた「共に学び共にくらす社会をめざして〜彩の国障害者プラン21推進のつどい」のシンポジウムで同市の坂本市長が宣言されていたのです。その部分を以下に再録してみます。
坂本市長
だっていちばん体の大変な人は、いちばん遠いところの学校行くなんていうのは絶対おかしい話ですよ。やっぱりさっきの小田原さんの話じゃないけど、目の前の近い学校に行きたいですよね。ですからその辺をですね、改革するにはどういう風にしていったらいいのか。 |
坂本市長の発言でわかるように、市長が「就学指導委員会」の問題を認識し、その廃止を決意したのは7月11日だったわけです。
次に、このニュースを報じた10月7日の埼玉新聞の記事をご紹介します。
障害児教育 保護者の意向尊重
東松山市教委は、障害児の就学先を判断する就学指導委員会を廃止する方針を固めた。小学校入学の時点で障害児と健常児を分けるという、これまでの就学指導の在り方を見直す。指導委に替わる少人数の組織が保護者にアドバイスするが、就学先の最終判断は保護者と児童生徒に任せる。指導委の廃止は「全国的にも例がない」 (文部科学省)という。
就学指導は障害のある児童生徒に対して、適切な就学先を選ぶ作業。各教育委員会内の就学指導委員会がその子の障害の程度を判断し、養護学校など「望ましい就学先」を保護者に通知する。
就学先の決定にあたっては「保護者の意見を聞くことが大切」(文科省)だが、保護者の意向は反映されにくいのが実態。障害者団体からは「指導ではなく保護者を説得しているよう」などと反発の声が上がっていた。
県教育局によると、今春に向けて就学指導を受けた児童生徒で、「盲・ろう・養護学校が望ましい」と判断されたのは733人。うち養護学校などに進んだのは約5割の390人。残りは普通学級や普通学校の特殊学級を選んだという。このような流れを受けて同市教委は小中学校の代表ら28人でつくる指導委を廃止。医師ら少人数で新たな組織をつくり、保護者からの相談に応じる。判断材料のーつとして「望ましい就学先」を示すが、最終的にどの学校に行くかは保護者と児童生徒が決める。
同市は普通学校に進学した障害児のために、市の単独事業として介助員制度を実施。障害児1人に介助員1人が付き、校内での移動や食事を手助けするなど、障害児も共に学びやすい環境づくりに取り組んでいる。
指導委の廃止について、文科省特別支援教育課は「全国的にも聞いたことがない。障害児教育について専門的な意見を聞く機会が確保されれば問題はない」としている。県特別支援教育振興協議会の中間まとめでも、指導委を「就学支援委員会」に改称して、相談体制を強化することを提案している。
ほかの市町村にもぜひ見習ってほしい取り組み。今までは「指導」といっても就学先を押し付けていたようなもの。これからはきちんと保護者の相談に乗る「就学相談委員会」になっていくべき。障害児の保護者は情報が少ない場合が多いので、障害児を育てた経験者を「相談委」に入れて、生の声を聞く機会をつくってほしい。
就学指導委員会 |
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児童生徒の障害を判断し、適切な就学先を通知する機関。市町村、都道府県の教育委員会がそれぞれ設置。医師や教諭、児童福祉施設職員ら20人程度で構成している。かつては設置が義務付けられていたが、文科省は2002年の通知で「今後も設置することが重要」「設置することが適当」としている。
埼玉新聞の記事を読んだ限りでは、就学指導委員会を廃止した後の「新たな組織」においても、「判断材料の一つとして『望ましい就学先』を示す」とされており、子供の中に「盲・ろう・養護学校が望ましい子供」とか「通常学級が望ましい子供」とかの線引きが本来あるという発想が残っており、これは学校教育法施行令22条の3別表の就学基準につながってゆくのではないかという懸念が残ります。とはいえ、全国初めての取り組みであることはたしかで、河端さんのコメントの通り、「ほかの市町村にもぜひ見習ってほしい」ものです。
「就学指導委員会は廃止できる」ということを東松山市が証明してくれたのですから、私たちも地元市町に対し秋から冬にかけて行動を起こしましょう。
春日部市教委および越谷市教委とは、昨年の話し合いのまとめとして、次の基本原則を確認しています。
「本来は障害のある子もない子も地域の通常の学級で共に育ち・共に学ぶことが大切である。現状ではそこで学ぶための理解や支援が整っているとは言い切れない状況もあるので、親子が望む場合には、特殊学級や盲・聾・養護学校も用意し、そこでの教育を選択できるようにしている。」また「盲・聾・養護学校に行っている児童・生徒も、本来は地域の通常学級で学ぶべき子どもとしてとらえる。」そして、就学指導委員会の問題に関しては、次のように確認してきました。
「地域の通常の学級で共に育ち・共に学ぶ上でのさまざまな壁や親子の不安・ためらいに応え、支えてゆくための『相談(および支援)』活動については、従来も行ってきたが、今後も努力を傾けてゆく。この相談活動とやむをえず特殊学級、盲・聾・養護学校を選択した親子や就学先に関し専門家の判断を希望する親子に対してのみ行うべき『就学指導』とは、はっきり区別し、まず『就学先判断』ありきという対応はしない。」
しかし、以上はあくまでも教委サイドの運用のレベルでしかなく、学校教育法施行令の就学基準により就学先を判定し、指導する機関としての就学指導委員会が、条例や規則で定められたままになっています。「まず『就学先判断』ありき」しか公式にはないのが現実です。昨年の確認をきちんと具体化していくためには、東松山市に続き就学指導委員会を廃止し、就学相談委員会を発足させることが必要です。その場合、「望ましい就学先」とは「地域の通常学級」しかありえません。そこに就学できるように相談をつくしたけれど、やむをえず本人・保護者の希望を踏まえて特別な教育の場での支援を選択する道も用意しておくということになるわけです。
これに対して、「最終的には通常学級で共に学ぶのが理想だが、十分な支援がいますぐ用意できないのに就学指導委員会を廃止するのは無責任ではないか?」という反論が、教委・学校関係者や行政担当者から出されるかもしれません。しかし、廃止するのは就学指導委員会であって、特殊学級や盲・ろう・養護学校ではありません。その人や家族が希望する・しないということとはまったく関係ないところで、障害のない人と一緒に生きていいか・悪いかを判定する機関というのは、いまの社会でもほかに例がありません。東松山市はとうぜんのことに先鞭をつけたのです。
廃止した上で、通常学級に十分な予算措置をできない現状もきちんと市民に明らかにしながら、現行の教育環境を前提として、なんとか一緒にやってゆく道をみんなで探ってゆこうというのが「責任のとりかた」というものです。そもそも加配や設備改善があれば障害のある子を受け入れられるということは幻想で、障害のある子が一緒にいる中でこそ関わり方や工夫が生まれ、ささやかな予算措置であってもそれなりに有効に使う方策がひねり出されてくるというものです。そこが予めハコと人を用意しておいてから「そこ向きの子供」を集めてくる特殊教育の発想と異なるところです。