県立高校入試についての教育局通知

障害者たちが欠格条項の削除要求で署名


 障害のある生徒が県立高校を受験する際に、障害による不利益がないように点字受験、時間延長その他の配慮をする制度がある。これを定めた通知の中に、介助を必要とする障害者に対する欠格条項というべき文言があるとして、障害者たちが教育局に対し、削除を求めている。問題の箇所は志願先の高校長が受験生の出身中学校長や場合によっては担任、本人・保護者に対して、受験上の配慮事項を説明する際に、併せて「高等学校入学後については、教職員数の関係から、学校として介助を行う職員等を配置することはできないが、施設・設備の改修等は、必要に応じ、高等学校長を通して、県教育局と協議する」ことを知らせるという部分。
 障害者仲間に署名を呼びかけた重度障害者・野島久美子さん(写真)は、養護学校卒業後、地域で介助者を募って一人暮らしをしながら、県立高校定時制に入り、卒業した経験をもつ。「入学後2年間は級友がトイレなども手を貸してくれた。遠足の前に校長から付き添いを連れて来なければ参加させないと言われたけど、いつも街の人に手を借りながら動いているので、当日も付き添いなしで参加し、何も問題なかった。そのうち私から頼まないのに、高校が非常勤講師を雇い、私の介助をさせるようになった。」と語る。
 「私達は介助を行う職員を配置してくれなどと言っていない。にもかかわらず、受験前に介助を行う職員を配置できないとわざわざ言うことは、介助が必要になるかもしれない生徒は付き添いを連れて来いと宣告するのと同じ。この条項自体が障害による不利益であり、障害者に対する欠格条項だ。」と野島さん。

 これに対して、県教育局指導課は、「現状をお伝えする必要があると考える」ので、介助員の配置のめどが立たなければ削除できない」とつっぱねている。
 「その考えこそ差別」と野島さん。「以前は電車やバスも車イス乗車は介助者同行が条件という欠格条項を含む規則があったが、障害者が街に出る中で撤廃された。公共施設も障害者排除の規則があちこちにあった。今はほとんど撤廃されたが、そのために職員の増員がなされたわけではない。しかし、電車にもバスにも、どの施設にも、介助を行う職員は配置してありませんなどと書かれたりはしていない。」本県の県立高校だけが、入試に関する欠格事由をなくすための措置の中に、別の形での欠格事由を組み込んでしまったというわけである。
 野島さんは「介助を行う職員をどうするかといったことは、まずこの条項を削除し、私のようななんらかの形で介助を必要とする障害のある生徒たちを受け止め、付き合う中で、一緒に考えてゆくべきだ。」と考えている。  なお、お隣の千葉県でも以前同様の通知があったが、すでに撤廃されているという。「介護の社会化」が国民的課題となっているいま、こうした条項が生き残っていることは信じがたい気もする。県教育局の迅速な対応を期待したい。(以下は、野島さんたちが作成した「要請書」)


2003年(平成15年) 11月21日

埼玉県教育委員会委員長様

埼玉県教育委員会教育長様

 要 請 書

「公立高等学校入学者選抜についての通知」の中の以下の文言は障害者が地域の中であたりまえに暮らしていく上での欠格条項に等しいものであるので削除してください。

なお、高等学校入学後については、教職員数の関係から、学校として介助を行う職員等を配置することはできないが、施設・設備の改修等は、必要に応じ、高等学校長を通して、県教育局と協議することを知らせておくこと。

 説 明 文

 埼玉県の「公立高等学校入学者選抜についての通知」の中にある、「U障害のある生徒の埼玉県公立高等学校入学者選抜学力検査出願の際の留意事項及び選抜の際の取り扱いについて」の基本的な考え方は「「障害のある生徒の、入学者選抜における学力検査及び選抜に当たっては、障害があることにより、不利益な取り扱いをすることがないように留意する」とあります。しかし、この通知の中に左記の文言が書かれています。私達は20年間、障害児の高校入学に関する問題について県の教育局と話し合いをしていますが、92年度以降、この文言の削除を求めてきました。その理由は以下のようなことです。

@「障害を持つことで不利益を生じないように受験上の配慮をする」通知であるにもかかわらず、入学後のことを説明している。

Aこれがあることで、「障害がある人は介助が必ず必要である」という意識を持たせてしまう

B今、地域生活の支援やその中での「介助」あるいは「介護」をどう創っていくかをめぐって全国的な検討が行われているにもかかわらず、「介助を行う職員」を配置することはできないと決め付けてしまっていることは、介助の必要な生徒に高校は対応しないといっていることに等しい。これは欠格条項である。

 上記の文言にあてはまるようなことを、地域で暮らしてきた経験から見直すと以下のようなものです。

 私は18年前親元から家出をしてきました。民間のアパートを探しましたが、新築のアパートは「改造はだめだ」と言われてきました。古いアパートならば多少の改造はOKとのことで入りました。しかし、12年間住んでいたアパートも、立ち退きにあい、出るはめになりました。県営住宅に申込みをしようとしましたが、「単身は大宮とか遠くのほうにはあります」と言われました。私は春日部でそれまで暮らしてきた関係があるので、春日部で住みたいと県の人に言いました。しかし、春日部市は世帯用が多く、単身用はないと県の住宅の人に言われました。だけど、こっちはなんとしてでも、県営住宅に住みたいというのがあって、2年間話し合いましたが入れませんでした。それで、たまたま武里団地に住んでいる近所のおばさんに「今度武里団地でシニア住宅を作るらしいよ、入って見なさいよ」と言われました。耳にした私は、さっそく、申込みをしました。受かったんだけど、公団でリフトがついていて、私には使いこなせないで、いくらシニア住宅といっても、障害者でも昇降機は使えない。公団で「それがいいですよ」と決まりきっているものを作ってくれますが、私には使えないのに一律に考えている。だから、障害者の住宅というのは、車椅子だからキッチンは真ん中に車椅子が入れるタイプというワンパターンになってしまっているが、介助者問題も同じで、「親の付き添い」や介助員がいることで、周りの人と支えながら生きることが難しくなる場合もある。障害者の暮らしや介助について知ることなしに学校として「介助を行う職員をおくことが」できないとかできるとかしないでください。もっと私たちの暮らしをみてください。(野島久美子)

 20年前に電車に乗るときは、介助者同伴でなければ駅の改札で電車に乗ることを断われました。「施設から来たのか?」とか自宅の電話を聞かれ、答えなければ市役所に電話で連絡先を問い合わされたりしました。電車に乗るときには車椅子から降りてシートに乗り移るようにも言われました。けれど、通りかかりのお客さんにたのんでホームまで行って、勝手にのって、勝手に降りて電車に乗りました。車椅子の人たちが利用するようになったから、駅のほうでも、いろいろ考えたりするようになってきました。今では介助をする駅員がいなくても、電車に乗ることを拒否されることはありません。もちろん、介助を行う職員等を配置することができないとは、どこにも書いてありません。


「介助を行う職員等」削除問題

埼玉新聞記事
http://www.saitama-np.co.jp/news11/26/31x.htm

毎日新聞記事
http://www.mainichi.co.jp/area/saitama/news/20031126k0000c011007000c.html