脱施設― 地域福祉が語られるが、一般の人々の中でのつきあいが失われてゆくままでは、「やはり施設しかない」となるのではという怖さがある。「障害児は普通学級にいるべきでない」と定めている学校教育法・施行令をなくすことから始めるべき。当面、今国会に出される障害者基本法改正案に、分ける教育を前提にした「交流」が盛り込まれようとしていることに対しても動いていきたい。
障害者基本法は「理念法」であり、この下に3 障害の「福祉法」や交通バリアフリー法などの「実体法」が位置づけられる。昔は心身障害者対策基本法があったが、国際障害者の十年を踏まえて障害者基本法に変わった。
いま自民党の改正案が出され、民主党等とも調整中。改正案で画期的なところは、「差別の禁止」が入り、「自立への努力」が削除され、「施設への入所」等を削除して「可能な限り自立した生活」に変え、「授産」を削除、「職業指導」を「職業相談」に変えていることなど。教育の部分に「交流教育」を入れるというのに民主党が反対し、「共に学ぶ教育」を対置したが、妥協線として「交流及び共同学習」という案になっている。また、中央協議会に関し、これまで「障害者及び障害者の福祉に関する事業に従事する者の意見を代表すると認められる者」としていたのを、「障害者、障害者の福祉に関する事業に従事する者」としたのも前進。附則として「5 年を目途として… 必要な措置を講ずる」とされるが、推進者の八代議員は「差別禁止法をつくるということだ」と述べている。
D P I としては、障害者協議会や育成会などとJ D F 準備会を組織しており、そこで基本法改正案の採択にあたり、いくつかの要点に関する附帯決議の採択が行われるよう各政党に働きかけている。教育については「インクルーシブかつ利用可能な教育を選択することができる条件整備」、「障害を持つ本人に必要な支援」など。この討議の中で、初めは「聴覚に障害のある児童生徒を対象とした単独形態の学校を最低1 県に1 校」と主張していたろうあ連盟が、「言語環境が異なるために手話による教育環境を保障するための検討」と考えを改めたことは注目される。
小児マヒだが、小・中では壁を感じず、高校で初めてぶつかった。が、高校長の一声で入り、大学進学、塾経営の人生コースにつながる。地域の大切さを感じたのは、家を出てから。学校時代の友達が頼りになった。市議となり、議会で就学指導の問題を問うている。さいたま市では、4 7 1 人が判定にかけられ、わずか3 回の就学指導委で就学先を決められている。どうしようもない矛盾を訴えてゆかねば。
3 歳までベビーカー、以後車椅子生活。普通学級を断られ、身障学級に入り、国語・算数だけ普通学級へ。身障学級は大人に囲まれるので同い年の子どもとの接し方がわからない。でも、普通学級の友達が放課後に遊びに来てくれたことが、いまでも思い出に。修学旅行は普通学級のグループに入ったが、どこのグループに入るのかで、クラスがもめた。そのことで、ふだんは子ども達が自分に気をつかっていたことがわかった。中学は普通学級に行き、本格的ないじめで落ち込んだこともあるが、その時守ってくれた友達と今もつきあっている。バリアフリーの都立高校に入ったが、「介助の先生はそちらで用意を」と言われた。中2のとき、父が片マヒになって以来、ヘルプ協立川の介助をお願いしていたのでよかった。共に学ぶ上で、ハード面だけでなく通学や校内の介助も考えることが大切。高校では友達がすぐできた。周囲の友達が介助者を意識しなかった。
3 1 歳になる自閉症の次男がいる。幼稚園で3 年間育ち、その流れで普通学級をめざしたが教委・学校とぶつかり、校区外の特殊へ。その後武蔵野東学園に行ったが、また地域の特殊へ戻り、養護学校高等部へ。そこでは障害の重い・軽いに応じわが子のことしか考えない親達の現実に出会う。育成会に入り、次男が1 8 歳のとき、入所施設の運動にかかわった。ふりかえってみて、バラバラの教育を息子に受けさせてきたことを、どう考えたらいいのか? また、親の思いと本人の思いのちがいを感じる。
県の新任職員の研修で「権利擁護」について話したが、自分自身を責めることにつながる。これまで「ノーマライゼーション」とか「バリアフリー」とか、障害のある側からばかり叫んできた。枠組みの中だけで叫んでいても、小さいときから一緒に育っていないのでは伝わらない。いまの学校の中で統合教育がいいとは思わない。しかし、国が本気でノーマライゼーションを進めるのなら、脱施設だけでなく、地域で人の心が変わらなければ。ほんとうは、私がもっとさらけ出していかないと、行政も人の心も変わらないと思っている。
4 歳の時交通事故で脊髄損傷に。栃木県那須郡湯津上村。養護学校も特殊学級もないところ。小学校時代は在籍は村外の特殊学級の訪問教育部だが、たぶん父母の闘いの結果、訪問学級の先生が来るとき以外は毎日地元の小学校に聴講生として学んだ。籍がないので、教科書もなし。知能テストも自分のぶんは送られてこない。たとえ残っていても、「徳ちゃんのぶんはないんだよね」とみんなは横に流していく。自分の立場が学校の中にないということは、いつも傷ついた。卒業証書ももらえなかった。きちんと、形としても学校の中に入ることが大事だと思った。
中学校は籍をきちんとした。留置カテーテルを使っているのでトイレを用意してくれたが、男性教員用のトイレの奥に作られた。ある日トイレに入ったとき、前の廊下を好きな男の子が通り過ぎた。それからは、熱発の危険があっても、学校では一切トイレを使わなかった。高校は女子高に行き、大学は電車で2 時間かけて、埼玉の放送大学まで一人で通った。
ヘルプ協会の仕事を通して、「学校教育と地域生活」について思うことは、ふだん緊急ごとではない支援を家に入れていくことが、その後につながるのではないかということ。
友野:自分は市の障害者計画策定懇話会で、「小さいときから分け隔てないでほしい」と発言してきた。金さんの話の中で「統合教育」と言われたが、それは「分け隔てない教育」のことか?金 : 私自身は「統合教育」という言い方に疑問をもっている。障害者権利条約のセミナーで全日本ろうあ連盟のパネラーが、「統合教育とインクルージョン教育は別」という言い方をしていた。「統合教育は聴覚に障害のある子どもを障害のない子どもに合わせるものであり、インクルージョンは一つの場で多様なニーズに応じたサポートを行う教育」と言われ、私も同様に思っている。
今井:ここにいる江橋さんは、今日は私の通訳で来てもらった。難しい話だと思ったので、彼にわかるようにほぐすことができるか、一緒に来てもらった。障害者基本法改正案で「自立への努力」はよけいなお世話であり、なくなってよかったと言われたが、「能力を活用」とか「努めなければならない」という表現は問題あるとはいえ、「社会経済活動に参加するよう」という部分をはずしてしまうと一緒じゃないという感じがする。私は国民としていつもよけいなお世話をされている立場だから、障害のある人たちもそういう立場を外されないでいてほしいと思った。
金 : 私なりの読み方をすると、「障害者はその有する能力を活用することにより、進んで社会経済活動に参加するよう努めなければならない。」というところは、心身障害者対策基本法を引き継いでいる。誤解のないように言っておくが、一般に障害者が自立への努力をしていくのは当たり前のこと。ことさらに法律の条文に盛り込むということがおかしい。ここに盛り込むことにより、障害者だけがこういう言い方をされるということ。「女性は… … 」という言い方をされたらどう思うか。
今井:「自立への努力」にひっかかっているのではなく、「社会経済活動に参加するよう」までなくなることにこだわっている。障害のない人たちの困難さにどうつきあっていくのかというところ。年金や支援制度が充実すればいいというのはちがうと思う。
金 : 第三条で「すべて障害者は社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が与えられる。」と改正案でもなっているが、「与えられる」というのはおかしいと思う。そういうことにも関連しているのだと考えてほしい。
名谷: 金さんへ。なぜ原則統合を打ち出さないのですか?
金 : 私は基本的に、ひとつの同じ環境において、多様なニーズを保障する教育をめざすべきと考えており、基本的には原則統合と同じと思う。障害者基本法に関する付帯決議の申し入れでは、D P I だけでなくすべての障害者団体が一致できるところということでああいう表現になった。ただ「インクルーシブかつ利用可能な教育を選択することができる条件整備」というのは、基本的には「原則統合が出来る条件整備」ということだと思う。
水谷:金さんへ。インクルーシブとかインテグレーションとか、それぞれがいろんな意味をこめて使っているので、そういう言葉を使わないほうがいいと思う。個人の支援はわかるが、だんだん特別な人として分けていく方向に流されないか。「普通学級に行くのが普通」ということを押さえておかないと、そうなってしまう。生まれたときから支援が必要という意識が深く進行していくのではないか。
金 :言われている趣旨は理解しているつもり。私も悩ましいところだと思っている。共に育ち学ぶという教育環境をどう作っていくか。まずは、どういう教育環境を選ぶかは障害のある本人が決めるべきことで、その結果ちがう環境を選んでもいいという意見が、世界ろうあ連盟や世界盲人連合から出されている。それを原則分離であるとは言えない。原則統合をめざすために、まず学校を本人自身が決めていくことを基本とすべきと思う。いまは地域の教育委員会が就学先の措置権を握っている。それを本人が選ぶというふうに置き換えてゆけば。
杉浦: 北山さんへ質問。修学旅行に行ったとき、ホンネを出し合ったというが、教えてほしい。
北山:修学旅行のときは身障学級の先生が「何も障害者だからといって、言いたいことは言っていい。」とみんなに話してくれたので、クラスの班分けはうまくいった。ホンネを言い合うまでにはならなかったが、今までのちょっとした気遣いがなくなり、楽しく行けた。
傳田: 鈴木さんへの質問が来ている。学校の中での介助者の位置について。
鈴木:自分が学校に行っていたとき、階段の昇り降りは親がしていた。事故があっても学校の責任は問わないという条件だった。高校のときは、逆に親のほうから「念書を書くから入れてくれ」と申し出てしまった。東京では、介助員が制度化されているところや、親達がかけあって何とか補助がつくところなどいろいろ。そこで介助者が入ってどうだったかは、北山君に。
北山:介助者が入ったことで特別変わったことはない。介助者は、教室移動、トイレ、特別な活動の際の準備など。それ以外の時間は友達と話をしていることが多かった。
鈴木:介助者も教委からのアルバイトとか、市区町村によってさまざま。現実に介助者が入った子に訊くと、いい先生もいればいろいろ。たとえば、介助者との関係が強くなると、友達と遊べない。「いつも見ていてくれる先生がいい」と言われた。
傳田:自分の場合、クラスの子が二人、毎日送り迎え。クラス全員が親切かというと、そうではない。でもクラス、学年の中にはめんどうみたいと思う子もいるので、私は介助者がつかなくても学校生活は成り立つのではないかと思っている。
荻原:金さんへ。ろうあの人たちも、地域の学校で手話を広く普及させたらいいのではないか。
金 :まったくその通りと思う。手話を公用語として認知してほしいというのが、要求の基本にある。公用語として認められれば、学校教育の中で科目として認知される方向になると思う。
荻原:ぼくはただ手話を普通学級でやるというのでなく、その中にろうあの人がいるということが必要と思っている。また、さっき「学校選択」といっていたが、22 条の3 をそのままにして、「あなたはどこの学校に行ってもいいよ」というのはちがうと思う。欠格条項がある中で「選択権」を言うのはちがう。
金 :私はいまの意見と一緒だと思っている。私が選ぶことを権利として認めさせてゆこうということは、そのための法律的な整備も必要と考えている。
飯田:基本法と支援籍の関係はどう考えたらいいのか? 熊谷市が支援籍のモデル市になったので。
傳田: これは特振協の委員だった武井さん、羽田さんに。
武井: 支援籍というのは、障害を持った子どもではなくL D 、A D H D といれるこどもたちが中心。統合教育に向けたものではない。
羽田: 共に育つことが目的であれば、特殊や養護にいる子ども達が通常学級に戻っていくために支援籍を使うのが基本であるはず。実際は、L D 、A D H D の子を特殊や養護にひっぱっていこうということが中心。
傳田: では、今後の育成会について、百瀬さんから。
百瀬: 昔は先生が分け隔てない教育をしていたという体験は聞いた。なんとかくかもしれないが、なんとなく地域にいられた。でも学校に来ないでいいよと言われて家の中にいた人たちもおり、そのために育成会が全員就学の運動をしたと聞いている。やがて、親達は疲れ、養護学校の中にいれば安心する。そういう中で地域の学校に行くことの是非が語られたりする。このへんが非常に危ういところ。地域の学校にはいじめもある。だから、分けた上での交流教育に期待する親も多い。しかし、いじめがあっても、大人になって自分がいじめをしたということを思い起こして考える機会もあるのだと思う。
福岡:県の育成会の理事会で、この教育の欠格条項の話をした。結論は出ていないが、これからずっとこの話をしていこうという前提はできた。これまで育成会は囲うことばかりやってきた。これからは地域の中で生きていくことを進めたい。
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