「支援籍」その後

―― 2月県議会・秦哲美議員(民主党)の質問

 以下に掲載するのは、埼玉県議会2月定例会での秦哲美議員(民主党)の一般質問とそれに対する稲葉教育長の答弁。秦議員は、まず土屋前知事が提唱した「分離教育から統合教育へ」がなぜ「分離教育を中心に交流教育を促進」という尻すぼみになってしまったのか、というきわめて的確な質問をしています。これに対し、教育長は、「それぞれの利点を生かす」などと、あいまいな答えをしています。

 次に秦議員は「学校教育法施行令22条の3」について「ノーマラーゼーションの理念に背く規定なので廃止すべき」と述べています。教育長は、「その妥当性について、国において検討されるべきもの」として、責任を逃れようとしています。

 秦議員は「障害児の就学先を決める最終の決定権は、保護者、児童生徒にあると思いますが、」と前置きして、「就学支援委員会の役割と機能」について訊いています。これに対し、教育長は、「教育委員会が就学先の指定を行う場合に」と、「保護者、児童生徒」ではないことをさりげなく明らかにしつつ、特振協の最終検討結果に沿って、就学先決定と個別教育支援計画作成に関する「専門的助言」と答え、「このための条例改正を、今議会でご審議をお願いしている」と述べています。

 秦議員は、「文科省の特別支援教育との整合性」、「LD、ADHD、高機能自閉症の生徒の教育」、「学校の体制作り」についても質問しています。教育長は、これらについて、それぞれ「モデル市において『個別教育支援計画の作成』、『支援籍』の検証を行う中で」、「学校内の委員会を、平成17年度中にすべての小中学校に配置」、「『支援籍』を実施するモデル市において検証」と答えています。

 教育長の答弁からは、文科省の特別支援教育の受け皿としての支援籍という意味合いしか感じとれません。普通学級に在籍する障害のある児童生徒や特殊・養護の児童生徒が、どう地域で共に学び育っていくのかについては、まるで語られていません。秦議員の「尻すぼみ」という表現どおり、「彩の国障害者プラン21」の「分け隔てられることなく」という基本理念とまったく逆の動きになっています。これ以上手をこまねいて見ているわけにはゆきません。

障害児教育について

Q 埼玉県は、土屋前知事が全部の障害児を普通学級に在籍させるという、いわゆる二重学籍論を強力に提唱したことが契機となって、平成十五年度埼玉県特別支援教育振興協議会を設置して、ノーマライゼーションの理念に基づいた教育の在り方について検討をされました。
 検討結果は、平成15年11月20日に県教育委員会に報告されています。
 埼玉県における普通学級に在籍している障害のある児童生徒の数は、特別支援教育課の調査によりますと、平成15年5月1日現在で1111名であります。
 埼玉障害者市民ネットワークの調査では3000名となっています。
 世界の国々の障害児教育の流れは、同じ教室の中で、障害のある子もない子も一緒に育ち学ぶというインクルーシブ教育へと大きくシフトしています。
 まず最初に、土屋前知事が提唱した分離教育から統合教育へと埼玉の障害児教育を改革する二重学籍論が、なぜ分離教育を中心に交流教育を促進するというしりすぼみになってしまったのか、その隘路について伺います。
 さて、文部科学省の調査研究協力者会議は平成15年3月に最終報告書を提出して、特殊教育を特別支援教育に変更する方針を発表しました。
 報告書は、21世紀の特殊教育について特別支援教育に改め、一人一人のニーズを把握し、必要な観点に立って障害児教育を進めることを提言しています。
 「彩の国障害者プラン21 ──共に学び共に暮らす社会をめざして」の概要版は、「自立に必要な力を高めるとともに、共に学ぶ教育を充実します」として、次の方針を掲げています。
 1.障害のある児童生徒と障害のない児童生徒が共に学ぶ新たな障害児教育システムの検討。
 2.LD、ADHD、高機能自閉症等に対する教職員の理解の促進や指導方法等の研修の充実。
 3.医療的ケアの必要な児童生徒のために医療スタッフの派遣や教職員研修の充実。
 このことについて平成十六年度にどう取り組まれるのか、基本的な見解を伺います。
 また、学校教育法施行令は第22条の3で、障害の程度による、盲学校、ろう学校又は養護学校に就学させるべき者を規定しています。
 この条項は、ノーマライゼーションの理念に背く規定なので廃止すべき条項と思いますが、見解を伺います。
 今度、就学指導委員会が就学支援委員会に変わるので、小学校入学の時点で障害児と健常児を分けるこれまでの就学指導委員会の在り方を、ノーマライゼーションの理念に基づいて見直すことになります。
 就学支援委員会は保護者にアドバイスするが、就学先の最終判断は保護者と児童生徒に任せるというのが法の精神であります。
 県教育委員会は、就学指導委員会を就学支援委員会に見直すことの提言を踏まえて、個別の教育支援計画が専門的に助言できるように県就学指導委員会の見直しをするとともに、市町村へも働き掛けていくことになります。
 障害児の就学先を決める最終の決定権は、保護者、児童生徒にあると思いますが、就学支援委員会の役割と機能について、見解を伺います。
 さて、県教育委員会は、埼玉県特別支援教育振興協議会の検討結果を受けて個別の教育支援計画の作成、就学支援委員会への見直し、支援籍学習の実施などにおいて問題点を検証するため、2年間程度かけて1市で試行し、そのうち課題を提起した上で6年後に全県的な定着を図っていきたいとしています。
 文部科学省が推進する特別支援教育との整合性をどう保っていくのかについて伺います。
 また、特別支援教育が既にスタートしている今日、試行実施の結果が出るまで手をこまねいて待っているわけにはいかないと思いますので、普通学級に全国平均で約六パーセント存在していると言われているLD、ADHD、高機能自閉症の児童生徒の教育をどう進めようとしているのかについて伺います。
 さらに、支援籍(仮称)の試行実施について、1市の小中学校を指定するとの報道がありますが、当面は運動会や文化祭の特別活動における交流になると思いますが、施設のバリアフリー化、介助員の配置、支援籍(仮称)を置く学校の普通学級の児童生徒との交流、障害児教育に全校で取り組む学校の体制づくりについて、対策を伺います
。  以上について、教育長に伺います。

稲葉喜徳教育長

A まず、二重学籍論が、なぜ分離教育を中心に交流教育を促進するという内容になってしまったかについてでございますが、特別支援教育振興協議会からは、盲・ろう・養護学校や特殊学級における教育と、通常の学級における教育のそれぞれの利点を生かす中で、ノーマライゼーションの理念に基づく教育を推進するという報告をいただいたものでありまして、障害児教育において新たな一歩を踏み出すものと理解しております。
 次に、彩の国障害者プラン21に掲げられている方針のうち、1つめの障害児教育の新しいシステムの検討についてですが、県ではモデル市に「支援籍」、「就学支援委員会」などの課題の検証を依頼し、共に学び共に育つ教育のシステムづくりに向けた具体的な検討を行うこととしておりますので、この中でこうした課題についても検証してまいりたいと考えております。
 また、2つめのLD、ADHD、高機能自閉症等に対する教職員の理解の促進や、指導方法等の研修の充実につきましては、平成15年度に引き続き、国の委嘱事業により、臨床心理士等による巡回相談を実施するとともに、福祉・医療等の関係機関や保護者との連絡調整を担う特別支援教育コーディネーターの養成研修を実施してまいります。
 また、3つめの医療スタッフの派遣や教職員研修の充実への取組みでございますが、これまで医師による研修を実施し教職員の専門性の向上を図ってまいりましたが、平成16年度から、新たに看護師免許を有する自立活動担当教員12名を、県立肢体不自由養護学校7校に常勤として配置し、児童生徒に対する医療的ケアを更に充実してまいります。
 次に、学校教育法施行令第22条の3の考え方についてでございますが、この条項は、児童生徒一人一人の障害の種類や程度に応じた教育を実現するための基準として定められておりますが、国においては、現在、特殊教育から特別支援教育への転換が図られようとしておりますことから、その妥当性について、国において検討されるべきものであると受けとめております。
 次に、就学支援委員会の役割と機能でございますが、就学支援委員会は、教育委員会が就学先の指定を行う場合に専門的な助言を果たすとともに、障害のある児童生徒一人一人に作成される「個別の教育支援計画」に対して、医療や福祉などの専門的な分野からの助言を行うこととなります。
 県の就学支援委員会につきましては、このための条例改正を、今議会で御審議をお願いしているところでございます。
 次に、文部科学省が推進している特別支援教育との整合性でございますが、国では、現在、LD、ADHD、高機能自閉症など特別な教育的支援を要する児童生徒への対応を図るため、特殊学級を「特別支援教室(仮称)」に、盲・ろう・養護学校を「特別支援学校(仮称) 」にそれぞれ転換することなどを、近々、中央教育審議会に諮問する予定であると伺っております。
 県といたしましては、こうした国の動向も十分踏まえ、モデル市において「個別の教育支援計画」の作成、「支援籍」の検証を行う中で、整合性を図ってまいりたいと存じます。
 次に、普通学級におけるLD、ADHD、高機能自閉症等の児童生徒の教育を、どのように進めようとしているのかについてでございますが、特別な教育的支援を必要とする児童生徒の対応につきましては、市町村教育委員会と連携し、その支援の在り方について検討する学校内の委員会を、平成17年度中にすべての小中学校に設置し、全校をあげて支援できる体制づくりを進めてまいります。
 次に、「支援籍」を実施する場合の課題への対応でございますが、教育活動の場所や内容によって、バリアフリー化や介助員配置の必要性が異なってまいりますし、また、効果的な指導方法や校内体制づくりも工夫する必要がありますので、こうした課題への対応策を「支援籍」を実施するモデル市において検証してまいります。
 ノーマライゼーションの理念に基づく教育の推進は、児童生徒に「生きる力」を育むためにも極めて重要でありますので、市町村教育委員会と連携しながら様々な観点から検討を加え、施策の充実を図ってまいります。