さる8月30、31日、埼玉障害者市民ネットワーク(野島久美子代表)主催の「総合県交渉」が、県庁第三講堂で開催され、「彩の国障害者プラン21」の中の6分野にわたって、県内各地から集まった障害のある人々や家族、関係者と県の各部局とが熱い応酬をくりひろげました(写真)。ここに紹介するのはそのうちの教育分野についての県の回答と質疑応答です。東部地区からもさまざまな人が発言しました。
@ 教育局の「ノーマライゼーション」解釈は?
彩の国障害者プランでは、ノーマライゼーションとは分け隔てられることなく共にということですが、教育局としても学校・教育の場面でも、まず養護学校ありきではなく、普通学校で分け隔てられることなく一緒にということが、ノーマライゼーションと考えていますか。 |
特別支援教育課 渋沢
本県におけるノーマライゼーションの理念に基づく教育の推進は、障害者に対する差別や偏見といった心の障壁を取り除く心のバリアフリーの教育と、障害のある児童生徒が社会で自立できる自信と力をはぐくむ教育の取組みを併せ行っている。一方に偏ることなく双方の取り組みがバランスよく行われることによって、本県としてのノーマライゼーションの理念に基づく教育が推進され、地域におけるノーマライゼーションの進展が図られると考えている。
A分けた上での交流に使われている「支援籍」の実態
今年度、埼玉県特別支援教育振興協議会の最終報告を受けて熊谷市・坂戸市でモデル事業を行いますが、その内容は交流教育が基本になっており、「ともに学ぶ」ことから大きくかけ離れています。この交流教育の目的は何ですか。また、その対象児はどのように選んだのですか。
特別支援教育課 渋沢
支援籍の目的は障害のある児童生徒と障害のない児童生徒が一緒に学ぶ機会を拡大させること。今回の試行実施に当たっては盲ろう養護学校における教職員や保護者に向けての制度説明を実施し、本人のニーズや保護者の意向も踏まえながら、市教委や該当学校関係者と相談して対象児を決定してゆく。
B県立高校の定員内不合格に関する協議の場を
特別支援教育振興協議会のなかで県立高校の「定員内不合格の問題」は、 新たな場を設けて協議することが確認されていますが、直ちに協議の場を設けてください。
高校教育指導課 田部井
これまでと同様に、高校教育指導課が窓口となり対応していく。
C県内小・中での「特別支援」の名による子ども達の品定めに疑問
県教育局は、この夏休みに県内の全小・中学校に対して、「通常の学級に 在籍する特別 な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」を行わせています。調査対象とされた各クラス10人の子供やその保護者に目的と内容を明らかにして了解を得てやっているのですか。また、この調査の目的のひとつとして、「小・中学校の教職員がLD,ADHD,高機能自閉症等により特別な教育的支援を必要としている児童生徒についての理解を理解を深め」るとされていますが、75項目に及ぶチェックをさせることによりクラスの子ども達に対する特別な見方を教員に強いることで、その後の偏見・差別につながることが危惧されますが、どう対処するのですか。この二つの疑問に明確な回答ができないなら、調査を中止し、結果を破棄してください。
県立総合教育センター 山田
、県立総合教育センターの調査研究のひとつとして実施する。特にLD 等を特定するものではなく、学習面、対人面などで通常の学級で支援を必要とする児童生徒の状態を把握し、今後のセンターでの教員を対象とした研修会の企画立案のたけの基本的なデータを得ることを目的としている。調査においてはその目的に基づいて行う予定である。
D親の付き添いが強要されている
就学指導において養護学校や特殊学級が望ましいとされながら、通常学級に通っている子供は、本来そこにいるべきではない子供と扱われることによって、介助員がいなければ親が付き添いを強要されています。県として、実態をきちんと把握していますか。市町村に対して、強制するなという指導をきちんとしてください。
義務教育指導課 加藤
付き添いについては必要があるとき、保護者と校長または市町村教委の話し合いによって合意の下で付き添いをお願いすることもあると受け止めている。保護者と校長、市町村教委とが独自に約束事としていることについては、県教委が指導することにはなじまない。もし、ご指摘のような事例があれば事実の確認をしたい。
Eたがいに分け隔てられて育つことにより背負わされる「障害」をどう考えるか
養護学校の教育は、小学部から高等部まで多くの学校で能力別に分けられ、一般の 小・中学校、高等学校とはまったく違う授業が行われています。その結果、卒業後地域の同年代で関わろうとしても共通の話題もなく、養護学校卒業生は疎外感を感じることがたくさんあります。このことは「障害の克服・軽減」といいながら、新たな「障害」を作るに等しいのではないでしょうか。このことをどのように思われますか。
居住する地域との連携を推進するため特別支援教育振興協議会の検討結果を踏まえ、ノーマライゼーションの推進を図り、新たな教育システムの構築をめざすことが必要と考える。特別支援教育課 山崎
@ 寄宿舎
寄宿舎の今後のあり方については、いま国で行われている中央審議会専門委員会の報告を踏まえ研究してまいりたい。
A 余暇活動特別支援教育課 山崎
養護学校の児童生徒の放課後における生活については、地域の関係行政機関、関係社会福祉機関との連携を図り、児童生徒や地域の実態に即して充実できるよう養護学校に助言して参りたい。生涯学習課 中村
市町村教委については、生涯学習・社会教育主管課長会議において、養護学校との連携が図れるよう働きかけていく。また現在県立高校や大学での公開講座に、養護学校の児童生徒が参加できる講座ができるよう働きかけていく。子供家庭課子育て支援担当 中島
県では、養護学校放課後対策事業として、養護学校に通学する生徒のための養護学校放課後児童クラブに補助金を交付している。16年度予算では前年度に比べ21.6 パーセント増えている。すべての養護学校放課後児童クラブに助成できるように努力している。今後も財政状況をかんがみながら、増加するクラブの補助に勤める。障害者福祉課地域生活支援担当 小川
支援費によるガイドヘルプサービスは国の基準により通勤・通学等の長期にわたる利用は対象外。平成16 年7 月の関東甲信ブロックの会議の結果により、外出の拡大を国に認めてもらえるように連名で要望した。
質疑応答
教育局の「ノーマライゼーション」ってなんだ?
羽田 特振協のノーマライゼーションは県障害者プランと関係ないという発言を渋沢さんがした。
特別支援教育課 渋沢 「彩の国障害者プラン21」の教育の部分を踏まえ、特振協で昨年11月に報告、そういう流れを踏まえながらやっているという表現。
吉原 「分ける教育・分けない教育のよさ、悪さがある」というのはどういうことか。
特別支援教育課 渋沢 分けない教育の大切さもよくわかっている。
大坂 特振協で定員内不合格が話題になり、別の場で考えると言った。教育局交渉ではその問題は特振協で話題にすると言った。
特別支援教育課 渋沢 分ける教育を全面的に否定するのかと言われると否定しない。定員内不合格の問題は、引き続き高校教育指導課が窓口になって対応する。
「付添い」を強いる背景に「分ける教育」が
松森 「合意の下で付き添いをしている」という回答だが、日ごろお世話になっている先生に対して親がいやだというのは本当に先生との関係なども考えてしまうし、わかりましたというほかない。学校の先生がそう言ってくるのはその根っこに「分ける」というのがあるのではないか。共に学ぶ教育をしてほしい。
神田 地域の学校でのせめぎあいを越えるとけっこう親は地域に根ざそうと思える。でも養護学校に行ったら、社会に出るのはあきらめる。社会に出て行けるという希望を持てるような施策を作ってほしい。
特別支援教育課 渋沢 松森さんの話について、市町村からも話は聞いている。地方交付税の算出根拠の中に介助員が入っていないし、緊急雇用基金を活用してやっているところ今年度で切れてしまう。しかし、県としても通常学級に在籍している子どものことはわかっているが、それでどうという方策は持っていない状況。
木村 盲聾養護学校・特殊学級適とされたが通常学級に行っている子が737 名。就学相談を受けないで通常学級にいる子どももいるから、かなりの数がいる。分け隔てられている現状があるから、支援を求められても何の体制もないので放っておかれる。特振協でも、県はずっとその問題を避けてきた。今回、障害者基本法改正の附帯決議に、「分け隔てられることなく参加できるように」および「障害のある児童・生徒と障害のない児童・生徒が共に育ち学ぶ教育を受けることのできる環境整備」という条項が入った。これは埼玉がモデルだ。原則は地域で共に。そういう地域がないから施設が必要だとか、特殊学校が必要だとかいうのならわかる、
特別支援教育課 渋沢 これまで学校教育においてはノーマライゼーションが全くなかったということを踏まえ、これを進めていかなければということで、本年度から進めている。特振協では通常学級に在籍している障害児への支援のあり方についての意見もあったが、まず確かな一歩を踏み出さなければというのがある。支援籍制度については全国に誇る制度としてうまく一歩を踏み出したい。盲聾養護学校の教育も大切にしたい。国における議論の中でご指摘のような議論が全くされていないというのは、個人的にはおかしいと思う。
養護学校の子も地域で生きたい
阿久津 特振協での山口薫先生のお話では、すべての子どもが地域の小学校の入学式に臨むようなことが重要だと言われていた。その支援籍というのはすべての障害児にということか。学童のことだが、障害児学童はどちらかといえば親への支援。本人は地域の子どもたちと遊びたいかもしれない。親も地域の学童に申し込んだが無理だといわれ、仕方なく養護学校の学童に行っている。養護学校を出たときに地域に戻って行けるような支援を考えてほしい。寄宿舎はメリットもあるが、本来家で過ごせるようなお子さんが寄宿舎に入ってしまったら親も楽してしまって、そのお子さんは本当に地域から忘れられてしまう。
大島 知的障害の養護学校に通っている息子が支援籍の対象になった。説明を受けたが、親が送り迎えをしてほしいといわれた。それでは行く意味がない。ほかの子は集団登校しているのになぜうちの子供だけ送り迎えが必要なのか。
飯島 学童クラブの上級生に多動の子どもがいて、普通の学級に通っており、親が働いている。その親に学童クラブの指導員からなるべく早く迎えに来てほしいという話。1 時にお迎えでは働き続けることが出来ず、パートに切り替えた。通常の子どもと同じように扱ってほしい。
山田 うちの子供は2 年高校を浪人している。、一緒に学ぶ教育が大切というのなら、定員割れしている高校を選んで受験しているのに能力・適性がなければ落とすということを、県教委としてどう考えるのか。
特別支援教育課 渋沢 特振協の中で入学式の話が出たが、支援籍の話は協議会ではまだ抽象的だった。現在もまだ具体的な中身はない。今後坂戸市や熊谷市にお願いしていく。送迎の問題は、保護者との意見交換など準備を進めている。学校や市教委に言ってもらえれば私に伝わる。
高校教育指導課 田部井 高校は選抜試験があり、最終的に合否の決定は校長の責任。定員内不合格がないようにというのは今までも校長会などで指導している。山田さんの話も今後も話していきたい。
特別支援教育課 山崎 寄宿舎は遠距離により通学の不便がないように、毎日の生活のリズムを持ちながら過ごす場所。今後も国の動向を踏まえながら。
子供家庭課子育て支援担当 中島 学童の助成金を手厚くという話は予算の枠があるが最大限努力。学童クラブの中に障害児も積極的に受け入れてほしいという話はしていて、それに対する助成金。
大畑 養護学校でほとんど国語や算数がなかった。
介助者 ほかの障害者からも聞いた。彼女はずいぶん勉強させられるクラスにいたが、リハビリもきつく、漢字もあまり読めない。勉強ができなかった不満を今もっているという話。
竹迫 私も養護学校の教員。どうして個別教育支援計画を立ててとか、ややこしくする必要があるのか。一歩始めるのであれば、とにかく普通学級の中でこういうことがあるから、どうにかしてほしいとか、それを解決していく姿勢さえあれば進んでいく。高校でも一緒に育っていけるようにとかかわってきたが、定員内不合格の問題、ただ指導するではすまない。
巣山 今まで個人にあった教育と言ってやってきて、漢字も勉強せずに、今大人になって勉強している。社会で生きるということは人の中で生きていくこと。今学校でキレるなどの問題が出ているが、あたりまえだ。一緒に行けない子どもは付き添いをしろとか言われていて、他の子ども達は一緒にどうやっていくかを学んでいない。健常者の側の問題だ。
山下 分けられている教育が長年定着してきてしまって、養護学校に行っている子は地元で完全に存在が消えている。そのことを障害者福祉課や子ども家庭課の人はどう考えているのか。義務教育課では、今年度737 名の子どもが望ましくないといわれながら通常学級に来ている。特殊学級にも盲聾養護学校が望ましいといわれた子が274 名。合わせると1011 人。そういう子どものことを義務教育課、子ども家庭課や障害者福祉課はどう考えるのか。
特別支援教育課 渋沢 人とのかかわりの大事さというのを十分踏まえてのこと。分けないことと分けることが両方というのはありえないことだという話だが、ありえることにしていきたい。
障害者福祉課 小川 障害者福祉課では、障害者基本法の附帯決議、「あらゆる分野で分け隔てなく」というのは障害者福祉課としても基本としている。1011 人のお子さんの状況、数字は知らなかった。相当数のお子さんがという話は聞いていたが。
義務教育指導課 加藤 それは把握しているが、人数は把握していなかった。学校訪問等で見かけたりして一緒に学んでいるとは把握していた。特にその状況について判断していない。
「手のかかる子」くくり出す調査は人権侵害
水谷 普通学級に在籍している障害児を、「ここにいてはいけない子」とする認識は変わっていない。Cに関して、データを得るために調査をしているという回答だったが、LD やADHD という名前が、学校で困った子供を新たにくくりだすものとして使われている。この調査票には「児童生徒の人権に十分配慮するように」と書いてあるが、調査すること自体が人権侵害。全く危惧の念を持っていないのか。
県立総合教育センター 山田 調査については、よりよい教育のあり方や教員研修のために2 年間の調査の一環。国のほうで調査を行っているのと同じ内容のもの。
水谷 6パーセントの全国的結果は出ている。学校で先生が困っていることと、病名をつけて調査するのは別問題。今現在普通学級に行く子供を認識していなくて新たにくくりだすというのはどういうことか。新たな差別を行っている。
県立総合教育センター 山田 LD やADHD を特定するのではなく、対人関係に課題がある子供や学習面や行動面に支援が必要とする子供について状況を把握。
水谷 調査の目的のひとつにそういうことをくくりだすことで教職員の理解を深めるということがあがっている。教職員にそういう意識を植え付けることになる。どうやって付き合っていけるようになるかと全く別問題。
県立総合教育センター 山田 この調査は全く無作為。
水谷 調査する対象者に全く知らせずに行うことが問題。現にいる障害児を無視して新たな障害児を作り出そうというもの。
県立総合教育センター 山田 障害を新たに作ろうというものではなく、その子に必要な教育的支援を行うために進めるもの。
竹迫 職員の研修のためというが、大体研修というと障害の程度はこうという話になり、そうなるとこの子は分けて特別な教育という話になりやすい。
木村 調査の目的や活用方法は調査相手に説明するべき。夏休みにわからないうちにやってしまおうというのは問題。LD やADHD を特定するのではないというが、確実に入っている。文部科学省との話し合いで、従来の障害児はその調査対象に入っていないと言っていた。埼玉は支援籍と言うが、文部科学省と同じように、今現に普通学級にいる障害のある子供を全く把握していない。支援籍によって居住地交流がやりやすくなるのかと思っていたが、逆で普通学級にいる困った子供を支援籍ということで追いやろうとしている。
白倉 調査の話が出たが、県は勝手にやっていてとても迷惑している。子供のときに差別して大人になってどうやって地域の中に生きろというのか。近所の人が声をかけてくれない。障害児の親は苦労している。親が希望して養護学校というのは否定しないが、地域の学校に通いたい子供や親を支援してほしい。
八木下 施策推進協議会で1 年間かかって「ノーマライゼーション」はどういうことかずっと議論して、「分け隔てられない」となり、障害者プランができた。それに基づいてといっているが、同じ県の中でどうしてこんなに違うことになったのか。県教委から出ている文書の中から「ノーマライゼーションに基づく」という言葉を全部削除してほしい。それがあるからみんな混乱する。
特別支援教育課 渋沢 「ノーマライゼーション」を使うなということだが、ぜひ使わせてほしい。この理念を広めたいと思っている。
次ページは、この「総合県交渉」で県から発表された過去2年間の県全体の就学指導結果です。盲聾養護学校や特殊学級が望ましいと判定されながら通常学級に就学する子ども達が単年度で700人前後おり、昨年の特振協の資料になった調査では、1111人のそうした子ども達が県内の小・中学校に在籍していることが報告されています。