続報・宮城県「普通学級が基本」へ

障害児の統合教育 宮城県が将来構想

専門家評価:施設整備などが課題

 障害児と健常児との統合教育を目指し、官城県が14日に公表した県障害児教育将来構想について、専門家からは「差別意識がなくなる」と評価する声が上がっている。一方で、保護者への十分な説明やハード整備などが課題として指摘された。
 「統合教育の実践」などの著作がある帝京平成大の山本和儀教授(地域りハビリテーション学)は「障害のある子どもと、ない子どもが一緒に学ぶことでしか得られないものは多い。お互いに心の優しさが育ち、差別意識がなくなる。理念としては大変素晴らしい」と称賛する。
 課題について山本教授は「障害児と健常児の保護者が一緒になって統合教育を進める雰囲気をつくり出せるかどうか。県教委は、゛保護者への説明にも力を入れるべきだ」と語る。教員の増員などで費用がかかるとされるが、「ボランティアを活用するなど、工夫次第でさまざまな逃が開ける」と助言する。
 「一つの教室の中で障害児と健常児が一緒に学ぷのが理想の教育。宮城県の構想はそれに沿ったものであり、ほかの自治体への波及も励みになる」。市民団体「障害児を普通学校へ・全国連絡会」の徳田茂代表=金沢市障害児保育施設「ひまわり教室」代表=も構想を歓迎する。
 子どもたちを「分ける」教育では、助け合うという気持ちが育たないというのが、徳田代表の持論。「若者は障害者を過度に『かわいそう』と思ったり、『怖い』と思ったりする傾向がある。一緒に学びあい、課題を乗り越えることが必要だ。」と語る。
 学校に障害者用のトイレや.エレベーターを設置することも必要になる。「施設整備は全国的に進んでいない。普通学校の教員が障害児教育について専門的な技術、知識を身に付けることも必要だろう」と徳田さんは強調する。

県統合教育構想

ともに学ぶ理念評価

環境整備に不安の声も

 県教委が十四日に公表した県障害児教育将来構想は、障害児が地域の 小中学校で学ぶ統合教育を目指す内容。教育関係者からは構想を高く評価する声が出るとともに、「果たして十分な教育環境を整備できるのか」といった疑問や不安の声も上がっている。
 「障害の有無にかかわらず子どもが−緒に学ぶというのは、世界的な流れであり、(県内でもやっと実現に近づくように思える」と評価するのは、市民団体「障害児を普通学校へ・全国連絡会」の 世話人を務める石川雅之さん(仙台市青葉区)。
 「障害の重い子どもでも 普通学校で学べる環境を整える必要がある。県教委は今後「分離教育は不自然」という姿勢を強く打ち出してほしい」と希望する。
 県立光明養護学校(仙台市泉区)の石川健校長は「障害児が生まれ育った地域で教育を受けるのは歓迎すべきこと」と基本理念に賛同した上で、「一人ひとりの障害の程度に応じた教育が重要になる。小中学校教諭の研修の場になるなど、養護学校にも新しい役割を求められるのではないか」と話す。
 慎重な実施を求める声もある.県特殊教育諸学校PTA連合会の斎藤孝吉会長(蔵王町)は、「障害児に必要な専門的教育を小中学校でどの程度できるかが心配.障害児によっては、養護学校での教育の方が効果が大きい場合もある」と指摘。
 県南地方の小学校長も「障害児が抱える課題はさまざまで、きめ細かな対応が必要。普通学級への在籍が必ずブラスになるとは限らない場合も出てくるのではないか」と心配する。
 宮城教育大の中井滋教授(障害児教育)は「教員増員や障害児用の教材整備などの財源確保と、保護者らの理解をどう得ていくかが重要.急がず地に足をつけて取り組んでほしい」と注文する。

白石県教育長 委員会説明

財源確保が一番の問題

 14日の県議会文教警察常任委員会で、白石県教育長は県障害児教育将来構想中間案について、次のように説明した。

―基本構想を実現するための課題は何か。
 「一番の問題は財源の確保。障害児が普通学級で学ぶ場合、教員の増員や校舎のバリアフリー化が必要。現状では障害児や保護者の希望通りに進めるのは困難だが、段階的に取り組みたい。」

―來年度はどのような事業をするのか。
 「2003年度から石巻、岩沼市、東和町で障害児が小学校の普通学級で学ぶ調査事業を展開していr。そのモデル事業を段階的に増やして各地域で展開し、課題を解決しながら全県的な取組みにしていきたい。」

―養護学校の今後の在りかたは。
 「県教委には養護学校の法的な設置義務があるので、当然存続する。文部科学省が養護学校の制度見直しを進めており、国の動向を踏まえながら、検討していくことになる。」

―浅野史郎知事は、知的障害者入所施設の「解体宣言」をしている。関連性はあるのか。
 「障害のある人もない人も地域でともに生きていこうという方向性は同じだ。」

―将来的には、養護学校高等部(高校に相当)に在籍する生徒も対象となるのか、
 「議論はしたが、義務教育とは違うという見方がある。結論はまだ出していないが、現時点では義務教育段階だけで進める予定だ。」

(以上 河北新報 2004.12.15)

2004年12月17日 第725回宮城県教育委員会会議録より同県教委の説明
(1)「宮城県障害児教育将来構想」中間案について
(説明者:障害児教育室長)

 本県における障害児教育の今後の在り方を検討するため、平成14年度に宮城県障害児教育将来構想策定委員会を設置し、平成15年3月に同委員会から提言を頂いた。
 これを受け、本県の障害児教育の将来構想についてこれまで検討を進めてきたところであり、今回、その中間案の取りまとめを行ったものである。
 将来構想 (中間案)の概要については,この構想の基本理念を「障害の有無によらす、全ての子どもが地域の小・中学校で共に学ぶ教育を展開する。」 とした。
 このような基本理念を掲げることとした理由は、 障害のある人もない人も、相互に人格と個性を尊重し支え合って共に地域社会の中で生活していくことを目指す必要があり, 学校教育としてもその土台づくりを担い,また、 それが子どもの人間形成の上ても極めて重要と考え,これまでの障害児教育の成果の上に立って、共に学ぶことを進めていく必要があると考えたものである。
 この基本理念の目指す姿のイメージとしては、 先ず、 小・中学校の学齢期の全ての子どもたちは、基本的には地域の小・中学校に学籍を置き、 障害のある子どもも含めて学級編制が行われることになる。そして、障害のある子どもが在籍する学級には、必要に応じて教員が複数配置され、ティーム・ティーチングにより授業が行われる。
 また、必要に応じて、 障害によって生ずる教育的ニーズに対応するため、学習支援室という教室が設置され、障害児教育の知識経験を有する教員の下で、障害のある子どもが必要な学習を行うことができる、といった学習システムが整備されている、というものである。
 このような学習システムを整備することによって、 障害のある子どもも障害のない子どもも可能な限り同じ学級に在籍し、共に学ぶ環境づくりを進めながら、 障害によって生ずる教育的ニーズにも対応していく、ということを進めていきたいと考えている。
 次に、この構想の性格について、この基本理念は高い目標であり、当然ながら直ぐに実現できるものではない。障害児教育制度や人材の確保、財源の確保など多くの課題を解決する必要がある。
 そのため、この構想は、 基本理念を目指しながら、そこに至るための今後10年間の施策の方向性を明らかにしようとするものであり、可能なところから段階的に進めていきたいと考えている。また、構想の対象は、主として義務教育期間と考えている。
 次に、 視点については、 これらを常に念頭に置いた上で将来構想を進めていきたい、という趣旨である。1点目は、障害の有無によらす、全ての子どもが学び育つ機会を保障する、2点目は、ハード・ソフト両面にわたって教育環境の整備を進め、 段階的に理念の実現を図るというものである。
 次に、基本理念を目指す目標については、4点に整理している。第1点目は、障害のある児童生徒の発達及び学習を支援する体制を整備する。第2点は、 市町村における就学支援体制を整備する。 第3点は、共に学ぶ教育に関する理解を促進する。 第4点は、 小・中学校を支援するため、 障害児教育機関の支援機能を整備するとしている。
 次に、 具体的な施策について、施策体系のとおり、 現状、課題を整理し、目標毎に具体的な施策と想定される事業を記載している。このような事業に取り組みながら、共に学ぶ教育を進めたいと考えている。
  主なものとしては、目標 Iでは、先程申し上げた教員の複数配置と学習支援室の設置、共に学ぶための指導内容や指導方法の確立、人材の育成など。目標Uでは、 市町村等教育委員会への支援。目標Vでは、市町村等教育委員会、学校現場、児童生徒の保護者をはじめとする地域社会における理解促進。目標Wでは、小中学校に対する盲・聾・養護学校の支援機能の充実、などを掲げている。
 最後に、今後のスケジュールについて、12月17日から1ヶ月間パブリックコメントに関する手続を行い、広く県民から意見を求めながら内容の検討を行った上で、年度内に策定したいと考えている。