埼玉県教育委員会教育長様
2005年7月21日
要望書
埼玉県教育委員会教育委員長様
どの子も地域の公立高校へ・埼玉連絡会
代表 斉藤尚子
みんな一緒に普通学級へ・埼玉連絡会
代表 加瀬正美
埼玉障害者市民ネットワーク
代表 野島久美子
現在、教育や福祉に関するさまざまな制度の改定が行われつつあり、大きく転換しようとしています。私たちは一貫して、「分けないで、共に」ということを訴えてきましたが、『障害者プラン』の策定においてもそのことが盛り込まれ、「分け隔てられることなく、共に」の方向に進んでいくものと期待しました。しかし、現在行われつつある諸改革は、「支援」という美句にくるんで、障害のある人とない人を、障害のある人をその状態や程度によって、ますます分けていく方向にあり、たいへん危惧しているところです。
ノーマライゼーションの名のもとに養護学校義務化から四半世紀経ちましたが、その結果はどうでしょうか。経済力低下とも相俟って、障害のある子とその親が孤立し学齢期から施設に入らざるをえなくなる例が増え、また、障害のある生徒の就職率は低くなっているという結果も出ています。果たして、分けて教育することで、「ノーマライゼーションの理念の実現」が成るのでしょうか。これからの社会においては、経済的に厳しくなることも考慮すればなおのこと、子どもの頃から一緒に育ち、日常的に身近で援助し合う関係を作っていくことがたいせつになってくるのではないでしょうか。どのような障害があっても地域の小中学校で共に育ち学ぶ中で、高校へもみんなと一緒に通いたいと、高校入学について貴局との話し合いを始めたのが1987 年秋でした。それから18 年近くの間に、障害のある子どもたちが高校に入学し卒業していくことは少しずつふえつつあります。今春、4年間も定員内不合格とされ続けてきた斉藤くんの大宮商業高校への入学、2年間定員内不合格とされ続けてきた山田さんの浦和一女高校への入学が実現しました。地元の高校への入学が実現したことは大きな意味があります。教育局の高校への指導と、それに応えようという高校の努力の成果と感謝しております。しかし、まだまだ広がりが見られず、定員内不合格とされ高校入学をあきらめざるをえなかったり、受け入れ校が限られているため遠くの高校へ通わざるをえなかったり、お金のかかる私立高校へ入らざるをえなかったりといった場合が多々あります。 地域で育ち生きていきたいと願い、高校への入学を希望している子どもたちの夢を実現していくために、教育局が率先して取り組んでいただきますようよろしくお願い致します。
1、 地元の高校へ入学できるよう定員を確保してください 同世代の友だちや周囲の人たちとの関わりが大切であることから、障害があっても地元の小中学校で学んでいる子どもたちがたくさんいます。同様の意味で地元の高校で学ぶことがとても重要です。しかしながら、地元に受け入れ校がなく、止むをえず、定員割れの遠くの高校へ、施設設備のある遠くの高校へ通っているケースが少なくありません。「能力・適性」一辺倒ではなく、地域で共に育つことの大切さを認識し、地元の高校への受け入れを進めて下さい。
@ 高校の入学定員は、中学生の進学希望者数を見て決めていると言っていますが、進学希望者数というのはどのように調査して出された数でしょうか。進学希望者数に障害のある子どもの進学希望者も入れて各高校の定員を決めていくべきであり、障害のあるなしにかかわらず、県内に住んでいる全ての中学生の進学希望者数をもとに高校の定員を決めてください。そのためには、特殊学級や養護学校の進路指導においても、進路の選択肢として高校もあることを本人・保護者に示し希望を訊くよう指導して下さい。受験者が定員をオーバーした時は、1.2 倍程度であれば、全て高校に入学させてください。
A 障害があると体力的に遠くの高校へ通うことはたいへん困難です。知的に障害のある子どもが一人で電車通学するのは難しい場合もあります。地元でなければ通えない理由を優先して入れる地域選抜制度を取り入れ、子どもたちを地域で見守る環境作りをしてください。将来の就業や生活など地域での関わりを作っていくためにも、地元の高校に通えるようにしてください。
B 施設設備が整わず、遠くの高校を選ばざるを得ない、あるいは私立高校へ行かざるを得ないという例がたくさんあります。入学者が出てから検討するのではなく、全ての高校の施設設備を整えて下さい。
2、 定員内不合格をなくしてください 定員内不合格について、県は「あってはならない」と明言し、通知においても「受検者数が募集人員に満たない場合、可能な限りその全員を入学許可候補者とするよう努め、・・・・・・・・・・。なお、確保しがたい場合には、事前に教育局指導部高校教育指導課長と協議すること。」として、歯止めをかけてはいるようですが、現実に、今春の入試結果では、後期募集で38 名、二次募集で8 名の定員内不合格者が出されています。さまざまな問題を抱えながらも高校へのつながりを求めている限り、受け止めていく姿勢を示すべきではないでしょうか。
@ 今年度の結果で、定員内不合格としたのははどのような理由からか、来年度入試において定員内不合格を解消するためにどのように取り組むのか、お聞かせください。
A 定員内不合格に関する確認(2001年3 月)で、理由を明らかにし、その理由を制度的な課題として認識するとしていますが、斉藤くんと山田さんの後期募集で定員内不合格とされた理由が明らかにされ、結局は障害に関わる理由でした。(その後、二人は二次募集で合格となりましたが、)障害を理由に不合格にすることは昨年改正された「差別の禁止」を基本理念とした『障害者基本法』に反するものです。障害を理由に不合格にすることは差別であることを認め、不合格としないようお願い致します。
3、 受験を希望している高校との話し合い、研修、体験通学等を行えるように指導してください 本人・保護者の希望により、受け入れに対する理解を深めるために、
@ 共に学ぶことの大切さや高校への想い、これまでに体験し蓄積してきたことを、本人・保護者・支援者が高校長や教員に伝える場を持てるようにして下さい。
A 障害のある生徒を受け入れている高校や中学校での研修で、その実態を知るに止まらず、受け入れのための研修にしてください。
B 実際に本人と出会い、どのようにして一緒に学び生活していくかを探っていくことがもっともたいせつと思われますので、体験通学ができるようにしてください。
4、 本人・保護者の申し出に沿って受験上の配慮をして下さい 「障害のある生徒の埼玉県公立高等学校入学者選抜・・・・・・」の通知においては、基本的な考え方として“障害があることにより、不利益な取扱いをすることがないように留意する。”と述べています。障害があっても、そのことが不利益になることなく、安心して受験ができるよう、本人・保護者から申し出のあった配慮を行うよう、高校長に指導してください。埼玉県内の高校ではこれまでに、問題文の代読や解答欄への代筆は行われた経過がありますが、回答を選択式にすることについても実施できるようにしてください。
5、 障害のある生徒の高校受験について中学校においても不利益のないよう指導してください 入学者選抜は受け入れる側の高校が最終的には判断しますが、出身中学校のあり方も大きく関わってきます。障害があっても地域で共に学ぶことに対する理解のある教員はまだまだ少なく、高校でも共に育ち学びたいということの意味をなかなか理解してもらえず、入試に対する不安や迷いの声がよく聞かれます。障害のある生徒の高校受験について、誤った情報が伝わっている例もあり、中学校に対してどのような指導を行っているのかお聞かせください。例えば、重度の肢体不自由のある生徒で、定期テストで回答を選択式にするといった配慮がなされていたのに、高校を受験したいという旨を中学校に伝えたところ、高校受験では名前等全部自分で書けなければいけないといって、定期テストで全く配慮をしなくなり答えられなくなったというような不利益を受けている例があります。県内の高校では代読、代筆による受験が行われた経過がありますし、定期テストでこのような扱いを受けると内申点にも影響してきます。県及び市町村の担当課ではどのように考え、対応していくのかお答え下さい。
6、 高校の統廃合や養護学校高等部分校設置をやめてください 地域の小中学校で育ってきた子どもたちが、選抜という体制の中で高校に入れず、それまでの地域生活が中断され福祉的な場へと集められていき、一方、高校においては、小中学校での共に育ち学ぶ経験の蓄積が生かされていかないという状況があります。埼玉県においても、養護学校高等部分校設置の方針が出されているようですが、果たしてノーマライゼーションにつながっていくものでしょうか。高校の統廃合を進めて定員を減らし入学を困難にしておきながら、養護学校の教室不足を理由に、高校内に分校を設置するというのは、障害のある子どもたちを差別して障害のない子どもたちから分け、さらに「自力通学が可能な比較的障害が軽い」子どもたちととそうでない子どもたちを分けていくことになります。なぜ、高校に一緒に通えるようにしないのでしょうか。