子ども達を分け隔てる就学指導は近年さらに強化されている(埼玉の場合)

埼玉県における就学指導結果の最近の推移(埼玉県教育局の資料をもとに山下が作成)

 判断件数判断件数の増加(1999=100)盲ろう養護学校判断特殊学級判断通常学級判断盲ろう養護学校就学特殊学級就学通常学級就学特殊教育適判断だが通常学級へ盲ろう養護判断だが特殊へ県内小・中学校在籍児童・生徒総数
19993520100582(16.5%)1956981(27.9%)340(9.7%)15291644(46.7%)667(18.9%)192(5.5%)614,998
20003821109661(17.3%)20621098(28.7%)377(9.9%)16031836(48.0%)740(19.4%)224(5.9%)610,456
20013816108671(17.6%)20361107(29.0%)369(9.7%)16551784(46.8%)681(17.8%)228(6.0%)605,342
20023975113733(18.4%)19561286(32.4%)396(10.0%)16341924(48.4%)691(17.4%)265(6.6%)602,952
20034087116749(18.3%)20251313(32.1%)402(9.8%)16322049(50.1%)737(18.0%)274(6.7%)599,749
20044189119815(19.5%)19811393(33.2%)452(10.8%)16322100(50.1%)721(17.2%)287(6.9%)599,468

 上の表は、埼玉県教育局の統計資料をもとにして、山下が作成しました。まず歴然としているのは、いちばん右に示されるように、小・中学校にいる子どもの数は、「若い県」といわれる埼玉でも少しずつ減っている(学校基本調査)にもかかわらず、就学判断にかかる子どもの件数(埼玉障害者市民ネットワークに対して県教育局が毎年示してした資料による。ほかの数字も同様。)は年々増えています。6年間で1.19 倍になっているのです。  「子ども達を分け隔てる就学指導は近年さらに強化されている」ことが見て取れます。

かき集められる子ども達

 就学指導(支援)委員会の「就学判断」は、近年どのような内容になっているのか?目に付くのは、「盲ろう養護学校判断」が6年間で1.4倍にもなっていること、また「通常学級判断」もやはり1.4倍になっています。就学先との関係で見ると、「盲ろう養護学校判断」を下されたが断って特殊学級に就学したというケースが、6年間で1.5倍(192件→287件)にものぼっています。また、盲ろう養護学校または特殊学級がよいと判断されたが拒否して通常学級へという件数は、このところ毎年700件のあたりをキープしています。すなわち、教育委員会、就学指導委員会のますます強化されてゆく「分け隔てる就学指導(支援)」に対し、「それでも一緒に」と抵抗を強めている親子の状況が浮き彫りになっています。
 そのような中で、全体としての子どもの数は徐々に減っているのに、特殊学級・盲ろう養護学校に集められてゆく子どもの数は逆に増えている(盲ろう養護学校就学340→452特殊学級1529→1632)ということが、社会に今後どれだけ大きい負債を背負わせることになるか、想像を絶するものがあります。

「通常学級判断」とは

 もうひとつ見逃せないのが、そのほとんどが「通常学級就学」にいたるとみられる「通常学級判断」の件数の増加(984→1393)です。その子ども達の多くは「軽度障害児」と判定され、「通級指導教室」に定期的に通う形になっているとみられます。通常学級で共に学びながら置き去りにされたり、いじめを受けたりもする中、別の教室(学校)に週1回行くのが息抜きになっているとの話も聞きます。しかし、置き去りやいじめは他のたくさんの子どもが抱える問題でもあります。教室の中で起こっていることを教室の中でリアルタイムで取り組まずしてどうするのでしょう。解決は見えなくとも、そこで一緒に悩むしかありません。別の問題としてすりかえたときから、わけのわからない問題になってゆくのです。たしかに、「緊急避難」を要するときもあるでしょう。しかし、「障害」を理由に特定の子だけを個別指導の場にやるというのは、もはや「緊急避難」とはいえません。やっと息をついている子どもや親を責めているわけではありません。制度のあり方を問題にしているのです。このことで、教室はさらに風化してゆくのではないでしょうか。

大量発見・大量支援…

 この「通常学級判断」のはらんでいる問題性を、限りなく増大させる危険を潜ませているのが、国の「特別支援教育」や「発達障害者支援法」であり、埼玉県の「支援籍」です。8月末に行われる埼玉障害市民ネットワークの「総合県交渉」の要望書には下記のような項目が入っています。

D 発達障害者支援法が施行されましたが、この法律の成立過程での当事者の不在が、あちこちから指摘されています。昨夏、県教委が県内の小中学校で一斉に行った「特別な教育的支援を必要とする生徒」の調査結果でも「10.5%」という数字が一人歩きしており、今後「早期発見・早期支援」の名による掘り起こし、ラベリングの横行が危ぶまれます。県として、こうした権利侵害の危険にどう対処されるのか、明らかにしてください。

 県内の小中学校の子どもの数 599,468 人の10.5%は、62,944 人になります。現在、盲ろう養護学校と特殊学級にいる義務教育段階の子どもは、6,065 人です。通級指導教室に通っている子どもは1,644 人です。合わせて7,709 人が、県教委「お墨付き」の障害児です。このほかに、一昨年の埼玉県特別支援教育振興協議会で私たちの求めに応じて、特殊教育が適切と判断されたが拒否して通常学級に通っている、いわば「アウトロー」の障害児が、1,111人いると報告されました。これを含めても8,820 人です。
 県教委・文科省は、これらの障害児の枠の外に、「特別な教育的支援を必要とする生徒」という新たな囲い枠を62,944 人分作ろうとしているのです。「アウトロー」の障害児1,111人を含むこれまでの枠の実に7倍もの大きさです。これまで「通常学級判断」を受けて通常学級に就学し、通級指導教室に定期的に通っている「県教委お墨付き障害児」のなんと38倍の子ども達を、新たに通常学級の中で「発見」し、「特別」な「教育的支援」を考えてゆくというのです。

悪循環をこえて

 その中には、これまで「親の育て方が悪い」とか「たちが悪い」とか「なまけている」とか、本人と親を一方的に責めてきた学校やほかの親たち、そして行政や企業が、これをきっかけに変わってくれるかもしれないという期待を抱いている親子、関係者がいることはたしかです。しかし、ターゲットされている圧倒的多数の子どもや親は、発達障害者支援法についても、特別支援教育について賛否を問われたこともなく、それらの存在すら知らないままです。しかも、発達障害者支援法にしろ、特別支援教育にしろ、手法は「これまでの障害者・児に準じて支援を」ということにすぎません。これまでの障害者・児は社会の中であたりまえに生き・働いているでしょうか。福祉的支援を受けようとすれば一般就労はあきらめねばならず、介助や支援を受けて学びたいと思えば場を分けられたり特別な枠組みに囲われたりしなくてはならなかったのが、これまでの障害者・児への行政施策です。そうした特別な枠組みでの施策を拡大することで、職場も学校も隣近所も、専門家を介さない自然なかかわり方がわからなくなってきました。そして、このように分け隔てられ、職場や学校や隣近所が均質な集団になりかけてきたからこそ、以前は目立たなかった行動や思考が浮き出され始め、それを「問題」ととらえた社会によって「○○障害」という新たなくくりが発明されてきました。こうした悪循環を社会は繰り返してきました。そろそろこの悪循環からの脱出の道をきりひらきましょう。