高校問題・2005年度第1回教育局交渉をやりました

8月26日(金) 職員会館401 司会・野島

 来春の公立高校入試へ向けて、どの子も地域の公立高校へ・埼玉連絡会等の今年度の県教育局交渉がスタートしました。この交渉は1988年から行われており、局側は高校教育指導課のほか義務教育課、市町村教育課、特別支援教育課などの主席・主幹等が出席し、その年の高校教育指導課の主席指導主事が県教育長の意を体して局を代表します。いま用いられている「障害の不利益に配慮する」通知や「定員内不合格」に関する通知も、この交渉の中から生まれました。
 国際・国内環境の激変に対応すべく、文科省、教育局は、生徒達の「生きる力」育成に躍起ですが、障害のある生徒達を排除したままでは何をやっても裏目に出ることは確実です。
 「地域で共に学ぶ高校」を実現させるために、あなたも教育局交渉においで下さい。なお、ここに示したように、県が用意してきた回答は杓子定規なものでしたが、その後の質疑応答を経て、末尾に示したような「宿題」を確認しました。次回の交渉は、この「宿題」を中心に行います。来春の公立高校受験について迷っている方、これからでも間に合います。どうぞTOKOまでご連絡を。

埼玉県教育委員会教育長様
埼玉県教育委員会教育委員長様

2005年7月21日

どの子も地域の公立高校へ・埼玉連絡会
代表 斉藤尚子

みんな一緒に普通学級へ・埼玉連絡会
代表 加瀬正美

埼玉障害者市民ネットワーク
代表 野島久美子

要望書

 現在、教育や福祉に関するさまざまな制度の改定が行われつつあり、大きく転換しようとしています。私たちは一貫して、「分けないで、共に」ということを訴えてきましたが、『障害者プラン』の策定においてもそのことが盛り込まれ、「分け隔てられることなく、共に」の方向に進んでいくものと期待しました。しかし、現在行われつつある諸改革は、「支援」という美句にくるんで、障害のある人とない人を、障害のある人をその状態や程度によって、ますます分けていく方向にあり、たいへん危惧しているところです。
 ノーマライゼーションの名のもとに養護学校義務化から四半世紀経ちましたが、その結果はどうでしょうか。経済力低下とも相俟って、障害のある子とその親が孤立し学齢期から施設に入らざるをえなくなる例が増え、また、障害のある生徒の就職率は低くなっているという結果も出ています。果たして、分けて教育することで、「ノーマライゼーションの理念の実現」が成るのでしょうか。これからの社会においては、経済的に厳しくなることも考慮すればなおのこと、子どもの頃から一緒に育ち、日常的に身近で援助し合う関係を作っていくことが大切になってくるのではないでしょうか。

 どのような障害があっても地域の小中学校で共に育ち学ぶ中で、高校へもみんなと一緒に通いたいと、高校入学について貴局との話し合いを始めたのが1987 年秋でした。それから18 年近くの間に、障害のある子どもたちが高校に入学し卒業していくことは少しずつふえつつあります。今春、4年間も定員内不合格とされ続けてきた斉藤くんの大宮商業高校への入学、2年間定員内不合格とされ続けてきた山田さんの浦和一女高校への入学が実現しました。地元の高校への入学が実現したことは大きな意味があります。教育局の高校への指導と、それに応えようという高校の努力の成果と感謝しております。しかし、まだまだ広がりが見られず、定員内不合格とされ高校入学をあきらめざるをえなかったり、受け入れ校が限られているため遠くの高校へ通わざるをえなかったり、お金のかかる私立高校へ入らざるをえなかったりといった場合が多々あります。
 地域で育ち生きていきたいと願い、高校への入学を希望している子どもたちの夢を実現していくために、教育局が率先して取り組んでいただきますようよろしくお願い致します。

1、 地元の高校へ入学できるよう定員を確保してください 同世代の友だちや周囲の人たちとの関わりが大切であることから、障害があっても地元の小中学校で学んでいる子どもたちがたくさんいます。同様の意味で地元の高校で学ぶことがとても重要です。しかしながら、地元に受け入れ校がなく、止むをえず、定員割れの遠くの高校へ、施設設備のある遠くの高校へ通っているケースが少なくありません。「能力・適性」一辺倒ではなく、地域で共に育つことの大切さを認識し、地元の高校への受け入れを進めて下さい。

 @ 高校の入学定員は、中学生の進学希望者数を見て決めていると言っていますが、進学希望者数というのはどのように調査して出された数でしょうか。

 例年10 月と12 月の2 回、県内公立中学校に在籍するすべての卒業予定者を対象に、中学校卒業予定者の進路希望状況調査を実施しています。
@定員の決め方
 県公立高等学校生徒募集人員は、中学校卒業見込み者数、過去の進学率、公私比率等を勘案して策定しておりま進学希望者数に障害のある子どもの進学希望者も入れて各高校の定員を決めていくべきであり、障害のあるなしにかかわらず、県内に住んでいる全ての中学生の進学希望者数をもとに高校の定員を決めてください。

 各高等学校募集人員は、全体の募集人員の増減を踏まえ、地域の中学校卒業者数、中学生の進路希望状況調査、過去の志願倍率、学級数の適正規模等を勘案して決定しています。
 そのためには、特殊学級や養護学校の進路指導においても、進路の選択肢として高校もあることを本人・保護者に示し希望を訊くよう指導して下さい。

 特殊学級や養護学校の進路指導については、埼玉県特殊学級及び盲聾養護教育過程編成要領の中で、生徒が自らの生き方を考え、主体的に進路を選択できるように、学校の教育活動全体を通じて、計画的組織的に進路指導を行うとなっており、これに基づいて、進路希望の取り扱いも含めて、適正に実施されていると認識している。
 今後も引き続き、一人ひとりの生徒が自らの生き方を考え、主体的に進路を選択できるように、関係機関と連携して、進路指導の充実に努めて参りたいと存じます。
 受験者が定員をオーバーした時は、1.2 倍程度であれば、全て高校に入学させてください。

 県教育委員会では、各高等学校校長に対してあらかじめ公示した募集人員を確保できるよう配慮することと指導しております。募集人員を超えて入学許可候補者を決定することは校長の権限であり、一律に定めることではないと考えております。
 A 障害があると体力的に遠くの高校へ通うことはたいへん困難です。知的に障害のある子どもが一人で電車通学するのは難しい場合もあります。地元でなければ通えない理由を優先して入れる地域選抜制度を取り入れ、子どもたちを地域で見守る環境作りをしてください。将来の就業や生活など地域での関わりを作っていくためにも、地元の高校に通えるようにしてください。

 高等学校が地域に根ざした学校づくりを積極的に推進するために、前期募集における地域選抜を実施しております。対象とする生徒は、当該高等学校が所在する市町村を基本として、通学距離や通学時間等を配慮し、当該高等学校長が適切に定めることとなっております。
 B 施設設備が整わず、遠くの高校を選ばざるを得ない、あるいは私立高校へ行かざるを得ないという例がたくさんあります。入学者が出てから検討するのではなく、全ての高校の施設設備を整えて下さい。

 従来より、障害を持った生徒の入学にあわせて、受け入れに必要なスロープ、階段手すり障害者用トイレの設置を行ってまいりましたが、平成13 年度より、快適ハイスクール施設設備事業を着手し、全校を対象に障害者用トイレスロープ階段手すり等の設置等、高校施設のバリアフリー化を計画的に実施しているところでございます。
 また、エレベーターについても、地域バランス等を考慮して、平成10年度から計画的に整備しております。厳しい財政事情の状況下ではございますが、今後も生徒の安全で快適な学習環境を確保できるよう、引き続き施設設備の整備を実施してまいります。
2、 定員内不合格をなくしてください 定員内不合格について、県は「あってはならない」と明言し、通知においても「受検者数が募集人員に満たない場合、可能な限りその全員を入学許可候補者とするよう努め、・・・・・・・・・・。なお、確保しがたい場合には、事前に教育局指導部高校教育指導課長と協議すること。」として、歯止めをかけてはいるようですが、現実に、今春の入試結果では、後期募集で38 名、二次募集で8 名の定員内不合格者が出されています。さまざまな問題を抱えながらも高校へのつながりを求めている限り、受け止めていく姿勢を示すべきではないでしょうか。

 @ 今年度の結果で、定員内不合格としたのははどのような理由からか、来年度入試において定員内不合格を解消するためにどのように取り組むのか、お聞かせください。

 定員内不合格を出す学校において、個々の合否について、その理由を明らかにすることは選抜の内容にかかわる事項になるので、公表することは出来ません。
 受験者が募集人員に満たない場合、可能な限りその全員を入学許可候補者とするよう、校長を指導してまいりたいと考えます。
 A 定員内不合格に関する確認(2001年3 月)で、理由を明らかにし、その理由を制度的な課題として認識するとしていますが、斉藤くんと山田さんの後期募集で定員内不合格とされた理由が明らかにされ、結局は障害に関わる理由でした。(その後、二人は二次募集で合格となりましたが、)障害を理由に不合格にすることは昨年改正された「差別の禁止」を基本理念とした『障害者基本法』に反するものです。障害を理由に不合格にすることは差別であることを認め、不合格としないようお願い致します。

 各高等学校においては、校長を委員長とする選抜委員会を設けて、厳正に選抜を行っており、各学校学科等の特色に配慮しつつ、障害のあるなしにかかわらず、その教育を受けるに足る能力・適性を判定して選抜を行っております。
3、 受験を希望している高校との話し合い、研修、体験通学等を行えるように指導してください 本人・保護者の希望により、受け入れに対する理解を深めるために、

 @ 共に学ぶことの大切さや高校への想い、これまでに体験し蓄積してきたことを、本人・保護者・支援者が高校長や教員に伝える場を持てるようにして下さい。

 埼玉県では、初任者研修、十年次研修という国の定める研修に加えて、五年次研修を行っています。その中で、障害者への対応、共に学ぶことの大切さ等に関する研修を実施していくよう考えております。
 A 障害のある生徒を受け入れている高校や中学校での研修で、その実態を知るに止まらず、受け入れのための研修にしてください。

 埼玉県では、初任者研修、十年次研修という国の定める研修に加えて、五年次研修を行っています。その中で、障害者への対応に関する研修もここ数年で増えております。
 B 実際に本人と出会い、どのようにして一緒に学び生活していくかを探っていくことがもっともたいせつと思われますので、体験通学ができるようにしてください。

 過去、数校において実施してまいりました。今後も当該校と協議し検討してまいりたいと思います。
4、 本人・保護者の申し出に沿って受験上の配慮をして下さい 「障害のある生徒の埼玉県公立高等学校入学者選抜・・・・・・」の通知においては、基本的な考え方として“障害があることにより、不利益な取扱いをすることがないように留意する。”と述べています。障害があっても、そのことが不利益になることなく、安心して受験ができるよう、本人・保護者から申し出のあった配慮を行うよう、高校長に指導してください。埼玉県内の高校ではこれまでに、問題文の代読や解答欄への代筆は行われた経過がありますが、回答を選択式にすることについても実施できるようにしてください。

 障害のある生徒の入学者選抜における、学力検査及び選抜に当たっては、障害があることにより不利益な取り扱いがないよう指導しております。
 さまざまな課題があり、今後障害があることにより、不利益な取り扱いが行われることがないよう、また、学力検査の公平性、厳正性に留意しながら、研究してまいりたいと存じます。
5、 障害のある生徒の高校受験について中学校においても不利益のないよう指導してください 入学者選抜は受け入れる側の高校が最終的には判断しますが、出身中学校のあり方も大きく関わってきます。障害があっても地域で共に学ぶことに対する理解のある教員はまだまだ少なく、高校でも共に育ち学びたいということの意味をなかなか理解してもらえず、入試に対する不安や迷いの声がよく聞かれます。障害のある生徒の高校受験について、誤った情報が伝わっている例もあり、中学校に対してどのような指導を行っているのかお聞かせください。例えば、重度の肢体不自由のある生徒で、定期テストで回答を選択式にするといった配慮がなされていたのに、高校を受験したいという旨を中学校に伝えたところ、高校受験では名前等全部自分で書けなければいけないといって、定期テストで全く配慮をしなくなり答えられなくなったというような不利益を受けている例があります。県内の高校では代読、代筆による受験が行われた経過がありますし、定期テストでこのような扱いを受けると内申点にも影響してきます。県及び市町村の担当課ではどのように考え、対応していくのかお答え下さい。

 本県では生き方指導としての進路指導の実現を目指し、一人ひとりの生徒が、自分の意志と責任で、適切な進路選択が出来るよう指導しております。県教育委員会といたしましても、各学校が障害のある生徒に対する進路指導に十分配慮し生徒が自分の意志と責任で、自分の進路を選択決定する能力態度を身につけることができるよう、市町村教育委員会を通じて指導しております。また、障害があるため、学力検査の際に配慮を要すると思える生徒が、公立高校へ出願する際には、中学校長は本人保護者の要望を十分聞いたうえで、志願先高校長に学力検査に当たって配慮してほしい措置、及び、中学校として平常の学校生活で配慮している措置について説明するよう指導しております。
 定期テストの配慮については、学校として検討し、判断されたものと考えております。今後とも、市町村教育委員会とも連絡を取りながら、その状況を把握してまいりたいと存じます。
6、 高校の統廃合や養護学校高等部分校設置をやめてください 地域の小中学校で育ってきた子どもたちが、選抜という体制の中で高校に入れず、それまでの地域生活が中断され福祉的な場へと集められていき、一方、高校においては、小中学校での共に育ち学ぶ経験の蓄積が生かされていかないという状況があります。埼玉県においても、養護学校高等部分校設置の方針が出されているようですが、果たしてノーマライゼーションにつながっていくものでしょうか。高校の統廃合を進めて定員を減らし入学を困難にしておきながら、養護学校の教室不足を理由に、高校内に分校を設置するというのは、障害のある子どもたちを差別して障害のない子どもたちから分け、さらに「自力通学が可能な比較的障害が軽い」子どもたちととそうでない子どもたちを分けていくことになります。なぜ、高校に一緒に通えるようにしないのでしょうか。

 中学校卒業者数が減少していく中で、各学校が活力に満ちた教育活動を展開し、適正な学校規模を確保するためには、県立高校の再編整備を進めていく必要があります。平成15 年度、特別支援教育振興協議会において、ノーマライゼーションに基づく教育を推進する観点から、高等学校内に、養護学校分校を設置することの研究の必要性について、検討結果報告を受けております。今後は、ノーマライゼーションに基づく教育を推進する観点と、教室不足の解消の観点から、高校の余裕教室を活用した分校の設置について、他県の状況などを参考に検討してまいりたいと存じます。

次回交渉へ向けての宿題として確認したこと

@ 質問の1の「県内公立中学校に在籍するすべての卒業予定者」の中に養護学校の生徒を入れないのはなぜか?

A 2の@について、定員内不合格を出した理由について、個人や学校を特定できない形でいいから、明確にしてほしい。この理由は%という統計的に出してほしい。  「あってはならない定員ない不合格」を厳正性・公平性という中に隠すのは、逆に偏見や差別につながる。実際に困るから定員ない不合格にしたのなら、その困ることを表に出してほしい。

B 特別支援教育振興協議会の中で教育長も「定員内については今後検討していく」といったことは行われているのか。定員内不合格についてはどこで検討されているのか?

C TのAについて。体力がないから遠くの学校へ通えないなど「地域の学校でなければ選べない」という生徒の側の課題と問題を、どう選抜で受け止めていけるのか?

D 過去県教育局が行ってきた(認めてきた)「障害があることにより不利益をこうむらないための配慮」を一覧表にしてください。

E 中学の進路指導の話。基本的には軽い障害の子で出来る子は高校を受ける対象として考えているけれども、重い障害を持つ子が地域の高校へ行って、学ぶためにはこういう手立てがありますよ、受験上の配慮があるということを含めた進路指導がされていないことははっきりしている。そのことに対してどうして行くか?

F 6の回答に関して、高校は高校、養護学校は養護学校とばらばらにとらえられているが、障害ある子供たちが地域の中で育って大人になっていく、その過程の問題として地域で共に生きていくための高校。ということに関して養護学校高等部の問題と高校の統廃合の問題は一緒の問題として考えていただきたい