どの子も地域の公立高校へ!2006年3月の日々

 高校ってなんでしょう?「義務教育とはちがう」と言われます。「高校には入試がある」、「単位をとらなければ、進級・卒業できない」と言われます。言われるだけでなく、みんなそう思っています。障害のある人や親の中には、「高校なんか行くために苦労するより、将来の生活のために動いたほうがいい」と言う人も多いです。
 でも、障害がなくても勉強ができない生徒はいっぱいいるし、高校の勉強なんかしたくないんだけどとりあえず行かないとということで、定員割れの高校をめざす生徒もたくさんいます。勉強ができる生徒も、なんのために行くのかなんて考えない人がたくさん。まして「将来の生活」なんて?!
 「どの子も地域の公立高校へ!」と三人の知的障害の生徒が県立高校の門を叩いてから17年――ある程度介助が必要な身体障害や点数が取れない知的障害の生徒に対するハードルも低くなってきました。しかし、全介助や意志疎通の困難な生徒に対する壁は厚く、定員割れにもかかわらず一人だけ落とされるといった、公立高校としてあってはならない事態もしばしば起こっています。連絡会では県教育局との間で、「定員内不合格とは、本人の能力、適性の問題ではなく、その生徒を受け止められない高校・教育局の能力・適性の問題である」という趣旨の確認書を取り交わしています。この線に沿って、今年も連絡会との交渉を受けて、県教育局の課長などが志望先高校を訪問し、受け止めるよう指導を行いました。それでも3人の生徒が二次募集、欠員補充と、必死にチャレンジをし続けたにもかかわらず、定員内不合格で切り捨てられてしまいました。重い障害をもった生徒達の高校生活をきりひらくために、教育局、高校、中学、地域を含め、一歩踏み込んだ取り組みが問われています。
 とくに残念なことは、中学校の進路指導がこのような障害のある生徒についての高校情報を全く把握していないことです。障害のある生徒は養護学校高等部へ進むのが当然と信じ込んでいる教員、親、本人……通常学級や特殊学級にいる障害のある生徒は、軒並み養護学校高等部に進んでゆきます。でも、養護高等部を卒業した生徒でも、高校の職業科なら入り直せます。「将来の生活」を組み立てる上でも、福祉制度以上に高校という制度を誰にでも活用可能なものにしてゆく必要があります。
 以下は、今年の入試で県立高校から切り捨てられ続けた3人の生徒達をめぐる教育局との交渉経過です。

 今春の高校入試では、後期試験において、あってはならないはずの定員内不合格が出された。その後、二次募集、欠員募集に際して、連絡会との話し合いを受け、県教育局の高校教育指導課長の直接の指導が高校に対し行われた。にもかかわらず、定員内不合格が出され続けた。

3月7日:後期入試の発表

 鶴ヶ島高・春日部高・松山高の3名のほか、40名余りの定員内不合格。3名の定員内不合格の理由は@受験上の配慮を含めての能力・適性A進級・卒業の問題B介助の問題。しかし、この理由は2001年の確認書にある定員内不合格を出す「それ相応の明確な理由」ではなく、障害があるためでしかない。これらは17年間の交渉の積み重ねを反故にすることを意味し極めて重大な事態であるとして、後期発表を前に3月15日連絡会として緊急の交渉を行った。

3月15日:藤井高校教育指導課長との再確認

・ 教育局全体で受け止めていくという位置づけでの「事務レベル交渉」である(主席一人が任を負っているのではない)
・ 定員内不合格の解消について、2001年の確認書に基づいて話し合いを進める
・ 高校に入りたいという希望にできる限り応えていく
・ 障害がある生徒は特別支援教育があるからという考え方には立たない

<二次募集受験先(鶴ヶ島・岩槻北稜・松山)の校長に直接会って指導する内容>
・ 2001年の確認書を見せて定員内不合格が重大なことであることを説明する
・ 「それ相応の明確な理由」には、入学してからのこと(エレベーターなど施設面、進級、介助)は含まれない

3月16日〜27日:欠員補充も不合格

 翌日、課長と主席が各高校を訪問し指導したが、学力・面接・内申書をもとに選抜会議、最終的には高校長が判断して3月17日の二次発表では岩槻北稜と松山は定員内不合格、鶴ヶ島は4名の定員オーバーの不合格。この結果を受け県と話し合った。後期試験の定員内不合格そのものがあってはならないことであること、また「意欲がある子どもたちに機会を与える」という設置者(県)としての考えを再確認した。
 その上で、欠員募集に向けて課長も含め受験者それぞれに個別交渉を行った。その中で全日制を選ばざるを得ない理由や中学校での受け入れの様子を現場から聞いた上で、局から受験先高校への指導を行った。が結果はまたも定員内不合格だった。教育局の高校への強い指導にもかかわらず、定員内不合格が出され、県の指導力が問われた。高校の理解をいかに進めていくかは緊急の課題である。

3月28日:人事異動前に連絡会として次年度への引継ぎ求める

 今年度の確認を踏まえ、以下の項目について、次年度に引き継ぐよう教育局に求めた。まず教育局の姿勢として

@ 高校入学問題について局全体で受け止めるということを具体的にシステム化。
(どの時期に、どの課(中学校、高校)が何をするか)学校説明会や体験授業は夏休みには終わるので、1学期の早い段階で、中学校に対して障害を持つ生徒の県立高校受験についての指導を行えるような義務教育指導課を中心として話し合いが必要。

A 高校と受験者の間にたって課題を解決する
(双方の確認として、今年は@受験上の配慮A定員内不合格を出した後の指導を行った。高校や中学校との関係を考え、課題としてB生徒受け入れのための理解を進める具体的な取り組みについて高校側との間に入るC義務教育指導課を通して市教育委員会・中学校への進路指導を早めに取り組む)

B従来の「能力・適性」の考え方は障害による不利益に値する。 局としては2001年の確認書の1と2の中で高校入学者選抜の資料として学力検査は否定できないとの答えだった。しかし、欠員募集を含め県として3回も定員内不合格を出し続ける以上「県として定員内不合格になる基準を明確に」と連絡会からの強い要望を伝えた。

高校について

@ 生徒について受け入れのための理解を進める具体的な取り組みをする。
(教員との話し合い、体験通学等)現役の生徒でも体験通学ができるようなシステムが必要
A まず体制ありきではなく、条件整備については一緒に考えていく姿勢を持つよう県が指導し十分に相談にのる。(場合によっては高校側が中学校の日常の生活を見に行くというようなことも必要)

中学校について

@ 障害のある子もない子も一緒に育つことが大切であるという考えに立って、必要な配慮をする。
A 高校受験については、ほかの生徒同様、中学校が保護者と連携をしながら責任を持って取り組む
B 高校での受け入れが進むように情報を提供する

市町村教育委員会について

@ 上記の中学校の取り組みができるような必要なシステム作りをする。





1.27 教育局交渉


2.27 竹澤輝くんの高校入試後期募集受験風景(介助者によるスケッチ)





3.7 定員内不合格が出されたことへの緊急教育局交渉