2003年12月 日
市町村教育長 様
どの子も地域の学校・高校へ・県東部地区懇談会

就学指導の抜本的見直しについての提案(案)

 今年度からスタートした県の彩の国障害者プラン21では、障害のある人とない人が「同等」になることをめざすこれまでの基本理念を改めて、「分け隔てられることなく」という理念をはっきりさせ、それに基づいて教育の分野においても「共に育ち、共に学ぶ」ノーマライゼーションの方向が確認されました。これに先立ち、昨年からスタートした春日部市障害者計画においても、「ともに学ぶ教育の推進」として「障害のある子どもと障害のある子どもが、分け隔てなくともに学び育つことができるように、多様な支援方法を検討して障害のある子どもの学校生活をサポートする。」とあり、さらに「養護学校に通う児童・生徒が地域社会の中で、その一員として豊かに生きることがでるよう、自分の住んでいる地域の児童・生徒と居住地の学校とが交流し、ともに学んだり活動をしたりするなどの交流のあり方を研究する。」とされています。
 県においては、「ノーマライゼーションの理念に基づく教育をどのように進めるかについて」と題する県特別支援教育振興協議会の検討結果報告が出されました。そこでは障害の種別・程度により教育の場を分けてきたこれまでの就学指導の見直しを踏まえ、「就学指導委員会から就学支援委員会へ」という提案もなされています。
 今日、地方分権の時代にあって、就学指導は基本的には市町村の自治事務であり、その見直しの責任を負うべき市町村の見識が問われていることは、いうまでもないことです。御市がこのことに取り組むにあたり、これまで20年以上にわたって「ともに学ぶ教育の推進」をテーマとして活動してきた立場から、以下の提案をさせていただきます。


提案

1.従来の一律の就学判定を廃止し、「共に育ち・共に学ぶ」ことを基本に

 これまで「就学指導」において、学校教育法施行令22条の3別表に基づき、障害の種類・程度に応じて、子供たちを「盲・ろう・養護学校が望ましい」とか「通常学級が望ましい」などと一律に判定してきましたが、これをただちに廃止すべきと考えます。その根拠は、これを学校の外の社会に置き換えてみれば、一目瞭然です。たとえば、まず判定ありきとして、一律に「入所施設が望ましい」人や「地域生活が望ましい」人を分ける判定など、存在しようもありません。福祉の分野においても障害の種類・程度に応じて利用可能な制度が異なりますが、「施設に入りたい」とか「ヘルパーの派遣を受けて生活したい」といった具体的な利用申請が出された後、はじめてそれを受ける資格があるかどうかの判定がなされるのです。
 利用の申請が出された場合その判定が必要になることはありますが、現在の就学判定は、障害があることによって行政が一方的に生活の場をきめつける差別制度であり、次代をになう子供たちに与える影響ははかりしれないものがあります。ただちに撤廃すべきです。
 そのことは、本来はすべての子供たちが地域の通常学級で共に学び、共に育つことをめざすべきであるという基本的な原則を確認することであり、ようやくにして教育におけるノーマライゼーションのスタート地点に立つということであります。

2.「適正就学のための相談・支援」から「共に育ち・学ぶための相談・支援」へ

 これによって、これまでの「適正就学のための相談・支援」から「共に育ち・学ぶための相談・支援」へ、ようやく転換できることになります。これまでは22条の3に基づく「適正な就学の場」を前提として、「本人・保護者の意志」を「適正」な方向へ「自己指導」(誘導)してゆくことが「相談」であり、「適正な就学の場」に「支援」があるという枠組みになっていました。今後は、「共に育ち・学ぶ」ことを基本として、特別な支援のほとんどない通常学級に行くことに対する不安や悩みとつきあってゆくことが相談の主要な中身になります。また「共に育ち・学ぶための支援」については、これから徐々に創り出してゆかねばなりませんが、これまで特殊教育で行われてきた障害のある子どもに対する特別な支援よりも、できる限り他の子供たちも含めた支援をめざす必要があります。そして、学校の中だけでなく、通学や放課後も含めた地域生活全体の中で「共に育ち・学ぶための支援」を考えてゆくことが必要です。

3.特殊学級や盲ろう養護学校で学ぶことを選んだ親子への相談・支援体制を

 本来はすべての子供たちが地域の通常学級で共に学び、共に育つことをめざすべきであり、自治体はそのための相談に最大限の努力を傾ける必要があります。しかし、それでも教育環境や主体的条件が整わず、本人・保護者が通常学級で学ぶことは難しいと判断し、特殊学級や盲・ろう・養護学校で学びたいという希望がある場合、それに応えられる体制整備は現状では必要なことです。もとより特殊学級や盲・ろう・養護学校は誰でも入れる学校ではありませんので、本人・保護者の希望により、その利用の適否の判断は自治体の責任で行う必要があり、そのための基準として22条の3別表が存在するのであれば理解はできます。
 こうして、特殊学級や盲ろう養護学校で学ぶ子供たちも、本来は地域の通常学級で共に学び、共に育つ権利をもった子供たちであるという認識に立ち、希望により本来ゆくべき通常学級での学習や行事に参加することを支援し、さらに転籍を望む場合は最大限の支援ができるよう、相談と支援体制の整備を進める必要があります。

4.国・県におあずけにせず、市町村の就学指導委員会条例・規則の改定から

    文科省は2005年を期して特殊学級を特別支援教室に、盲ろう養護学校を特別支援学校に転換してゆく方向での法改正をめざすとしているようです。また、11月20日に出された埼玉県特別支援教育振興協議会最終報告においては、学校(学級)の枠を柔軟にする「支援籍」制度を県単で作ることにより、文科省の法改正を待たずに同様の方向へのステップを踏み出そうとしています。
 国・県ともに、これまでの「場を分けた教育」への批判を踏まえ、社会のノーマライゼーションの波に対応しようとしていますが、決定的なあやまちは学校教育法施行令22条の3別表に基づく就学指導の基本については、現状維持でしかない点です。
 国・県いずれの動きに対しても、特殊学級や盲ろう養護学校の親や教員から、子供たちがそこを追い出されるのではないかという不安が寄せられていますが、学校教育法施行令22条の3別表に基づく就学指導の基本は、教育委員会が子供たちをふりわけるというところにあり、その基本を変えないままで「場を分けた教育」を柔軟にしようとしても、より効率的に細かく子供たちを分けることにしかならないのははっきりしているからです。
 そして、国・県がこの学校教育法施行令22条の3別表に基づく就学指導に固執しているのは、もしこれをなくしたら障害児の多くが通常学級に流れ、特殊学級や盲ろう養護学校の教育は成り立たなくなり、市町村からは通常学級の障害児への支援要請が殺到し、収拾がつかない状況になるのではないかという判断があるからです。実際には、いま国が「脱施設」や「社会的入院の解消」を方針化していますが、現場では遅々とした流れしか生まれていないことでもわかるように、いったん分けられた世界が一緒になってゆくにはきわめて長い時間がかかるはずです。国・県の不安は、現実的ではないのです。
 国・県の動きをただ待っていても、「共に育ち・学ぶ」社会はきりひらかれません。そして、「共に育ち・学ぶ」ことがなければ、「共に働く」ことも「共に暮らす」ことも地域社会に根付ききれないでしょう。
 就学指導は市町村の自治事務です。特殊学級や盲ろう養護学校の体制を変えることはできませんが、就学指導のありかたを本来あるべき姿に直すことなら、市町村の判断でできるのです。そして、あちこちの市町村がそこに手を着けることが、実態に基づいて県や国の施策に影響を与え、学校制度をゆるやかに変えてゆく原動力にもなるのだと確信します。
 すでに東松山市では全国で初めて就学指導委員会を廃止し、就学相談委員会を立ち上げることを明らかにしていますが、私たちはこれを支持するとともに、他市町村においても学校教育法施行令22条の3別表に基づく一律の就学判定を撤廃し、共に学び、共に育つための相談・支援体制を、本人・保護者の参加の下に確立することをめざすよう提案したいと思います。